テレビや映画で、クルマが疾走しているワンシーン。「カッコいいなぁ」と思ってじっと見ていると…。あれ、タイヤ逆回転してないか!? そんな経験はありませんか。
これは、「ストロボ効果」という現象で、もちろん、前進しているクルマのタイヤが逆回転しているわけではありません。なぜ、逆回転しているように見えるのでしょうか。
文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:HONDA、写真AC イラスト:著者作成
タイヤの回転周期と撮影周期に起因
テレビや映画、ビデオなどで走っているクルマのタイヤが、一瞬停止したり、ゆっくり逆回転しているように見えることがあります。クルマのタイヤだけでなく、飛行機のプロペラ、ヘリコプターのブレードのような、高速で回転するもので見られる現象です。
もちろん、実際に回転体が止まったり、逆回転しているわけではありません。これは、高速撮影した静止画をパラパラ漫画のように連続的に流すことで物体が動いているように見せる、動画の作成方法に起因します。
余談ですが、今から130年ほど前に、この原理のもとになるキネスコープを発明したのは、かの有名なエジソンです。ロール状のフィルムを光源の前で流して覗き窓で鑑賞するという、現在の動画のもとになる仕組みを、100年以上も前に発明していたのです。
さて、一般的に、テレビやビデオは1秒間に30コマ、映画は24コマの静止画を連続させることで動画にしています。静止画の撮影周期とタイヤの回転周期が一致すると、いつも同じ向きのタイヤが撮影されるので、タイヤは静止しているように見えます。また、そのタイミングが僅かにズレると、タイヤがゆっくり回ったり、逆回転しているように見えるのです。これが「ストロボ効果(ワゴンホイール効果)」と呼ばれるものです。
6本スポークの場合は、34km/hで止まって見える
ストロボ効果の基本的な原理を、ここでは回転している1本スポークのタイヤを、TVカメラで撮影している状況で説明します。
TVカメラは、1秒間に30コマの静止画を撮影するので、タイヤの回転数が30回/秒か、その整数倍であれば、いつも同じ状態の静止画が撮影されるので、タイヤは止まっているように見えます。
次に、タイヤの回転数がTVカメラの撮影周期よりも長くなる(回転が下がる)と、撮影時のタイヤ位置は毎回少しずつ遅れるので、撮影動画はゆっくり逆回転しているように見えます。反対にタイヤの回転数が上がると、撮影時のタイヤ位置は毎回少しずつ早まるので、ゆっくり正方向に回転しているように見えるのです。
ただし、ゆっくり回転しているように見えるためには、回転数のズレは僅かである必要があります。ズレが大きいと、画像が飛びすぎて人の眼にはスポークが回転しているように見えないのです。
では、タイヤのスポークが6本の場合で考えてみましょう。スポークが6本の場合は、同じ状態に見えるのは1回転でなく1/6(60度)回転なので、タイヤが静止して見えるのは、タイヤの回転数が5回/秒とその整数倍となります。
仮にタイヤ直径を0.6mとすると、タイヤの回転数5回/秒の車速は、約34km/h(=0.6/1000×3.14×5×3600)なので、6本スポークのタイヤの場合は、車速34km/hとその整数倍の車速でタイヤは止まっているように見えます。また、その近傍の車速でゆっくり逆転したり、正転するように見えます。
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