自動車メーカーが推奨するエンジンオイルの交換時期はNA車、ターボ車、ディーゼル車によって違いがあり、さらに走行距離の30%以上が悪路や山道、1回あたりの走行が8km以下という短距離走行を繰り返すシビアコンディションの場合はさらにオイル交換サイクルが短くなる。
最長2年まで交換不要という輸入車メーカーもある。
また走行距離3000~5000kmごと、または3ヵ月~6ヵ月の交換を推奨をしている大型量販店がある。いったいどれが正しいのかと思う人もいるだろう。
じゃあ、そもそも素朴な疑問として、エンジンオイルを交換しないと何がどうなるのか、メンテナンスのスペシャリスト、鈴木伸一さんに聞いてみた。
文/鈴木伸一
写真/ベストカー編集部、Adobe Stock(トップ画像=ronstik@Adobe Stock)、写真AC
■まずはエンジンオイルの役割をおさらい
エンジンは回転時、内部の様々な部位で金属パーツが高速で擦り合わされている。ところが、金属を擦り合わせると摩擦によって発熱し、そのまま擦り続けると高温となって激しい「凝着現象」、いわゆる焼き付現象が発生。固着して動かなくなってしまう。
それを防ぐため、オイル(エンジンオイル)による潤滑が行われている。しかし、エンジン内部には燃焼によって生じるカーボンや不完全燃焼による不純物が滞積しやすく、それが原因で冷却効率が低下したり腐食・摩耗が促進するなどの難問も抱えている。
このため、エンジン内部をクリーンに保つ「洗浄作用」、サビから守る「防錆作用」、ピストンとシリンダの機密性を保つ「密閉作用」、温度を下げる「冷却作用」といった複数の能力も、エンジンオイルには求められる。それを実現するため、ベースオイルに様々な添加剤が配合されているのだ。
とはいえ、それらの効力も永遠には続かない。各部の潤滑中に摩擦などで高分子が剪断されて潤滑性能が低下。燃料の燃えカスや金属摩耗粉、水分の混入などによってオイル自体の性能が徐々に低下する。つまり、使用していれば劣化し、本来の性能を発揮できなくなってくるからだ。
そこで必要となるのが「定期的なオイル交換」で、クルマ好きの間では「3000~5000km毎」との認識が一般的。クルマのためを思えば、性能が劣化する前の早め早めの交換がベストだからだ。
確かに、2000年以前の指定オイルがSHやSJグレード指定の平成1桁以前の古いクルマは、5000kmも走るとエンジンの回りが重くなったり、異音を発するなど、明らかなオイル劣化の徴候が認められた。
が、しかし。地球温暖化を背景に環境対応への強化がなされている近年のエンジンは、普通に走らせている限り5000km程度で体感できるほどの劣化の徴候は認められない。エンジンは元より組み合わされるエンジンオイルの性能が劇的に進化しているからだ。
ゆえに平成2桁以降のモデルで、省燃費性と高いエンジン保護性能を両立させるために低摩擦性能や耐摩耗性能が強化された「SM/OW-20」といった低粘度の省燃費オイルが指定されたNAモデルで、指定オイル使用で年間走行距離が1万km程度のユーザーなら、1年に1度の交換サイクルでもなんら問題はない。
そのオイルの交換サイクル、カーメーカー指定の数値は設計時の想定や様々な走行テスト等から導き出された一般走行で問題なく走り続けることができる推奨値で、「どんな乗り方をしているか」や「ターボ搭載車であるかどうか」などの走行条件によっても変わってくる。
さらに、カーメーカーによって若干違いはあるものの、国産車では一般に以下のようになっている。
●ガソリンNA車/1万5000kmまたは1年
●ガソリンターボ車/5000kmまたは6ヵ月
●ディーゼル車/1万kmまたは1年
このように高温・高圧下で高回転するタービンが内蔵されたターボ車は交換サイクルが短いが、日産のR35 GT-Rのようにターボモデルでありながら「1万5000kmまたは1年」いうケースもあるので、ターボ車ユーザーはオーナーズマニュアルで必ず確認を!
また、定期点検時の項目数にも影響する「シビアコンディション」に該当する使い方をしていた場合、次のように交換サイクルはほぼ半分となる。
●ガソリンNA車/7500km、または6ヵ月
●ガソリンターボ車/2500km、または3ヵ月
●ディーゼル車/6000km、または6ヵ月
「シビアコンディション」とは悪路走行が30%以上、走行距離が多い、山道など上り下りの頻繁な走行が30%以上といった、エンジンオイルに負担がかかる過酷な使用条件下における交換サイクルで、これに該当したら早めに交換する必要がある。
なお、「街乗り主体で距離も走らないから自分には関係ない」と捉えていたなら大間違い。近所に買い物等でエンジンが温まらないうちに帰ってくる「ちょい乗り(1回あたりの走行距離が8km以下)」や真夏の渋滞路の「のろのろ運転」も、この「シビアコンディション」に該当するからだ。
ガソリンの燃焼過程で発生する水分などはエンジンが暖まることで蒸発するが、完全に暖まらない状態で止めると蒸発しきらずに残った水分がオイルに混ざり込み、スラッジを発生。
不完全燃焼によるガソリンの燃え残りの混入量も増加することに。のろのろ運転では取り込んだ熱を放出できずに油温が限度(一般に130℃)を超えると性能が一気に低下と、いずれのケースでもオイルの劣化が早めることになるので、注意が必要だ。
また、欧州車は国産車に比べて交換サイクルが長く設定されている。特にVWは「最長2年または3万km」という驚きのロングサイクルを謳っている。
これはクルマの使用状況や運転スタイルに応じてコンピューターがオイルの状態を判断して補充や交換の時期を知らせてくれる「サービスインジケーター」と「純正オイル」との組み合わせ、かつ「定期的な点検・補充」が欠かせないなど、一定の条件を満たした上での話。つまり、無条件でというわけではない。
さらに、現実問題としてゴーストップが多く慢性的な渋滞にも巻き込まれやすい日本の交通環境は欧州に比べて遙かに過酷(いわゆるシビアコンディションに該当)というのが実情で、国産車NAのレギュラーコンディションに準じた交換サイクルでの対応が一般的だ。
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