ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第八回目となる今回はスバルとソルテラを取り上げる。ピュアEV・ソルテラの米国での反応、また大泉工場(群馬県)へのBEV専用工場建設の発表を通して、ソルテラがスバルにもたらした「ふたつの光明」について解説する。
※本稿は2022年6月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真・画像/SUBARU ほか
初出:『ベストカー』2022年7月26日号
■中西氏の興味の矛先はBEVにおける「スバルらしさ」の結実
遅ればせながらスバルソルテラを試乗してきました。
既知のとおり、トヨタbZ4Xとスバルソルテラは、両社がBEV(電気自動車)プラットフォームを共同開発し、中型クロスオーバーとして発表したグローバルモデルです。
トヨタはその共同開発プラットフォームを「e-TNGA」と呼び、スバルは「e-SGP」と命名しています。
両社の共同開発は、86/BRZですでに実施していますが、その時は企画と車両デザインがトヨタ、車両本体の開発と生産はスバルというように、明白な役割分担があったわけです。
しかし今回のbZ4X/ソルテラは、トヨタのZEVファクトリーへスバルの開発者が出向き、トヨタの開発チームと合わせて200名強が集結して一緒に開発を行いました。
スバルには「スバルらしさ」という走りへの強いこだわりがありますから、果たしてトヨタとの共同開発がいかに結実したか、非常に興味深いものがありました。
■ソルテラによってスバルにふたつの光明が差した
シャシー、車体、パワーユニットなどの機能別にチームを形成し、それぞれトヨタ、スバルである程度の主導権を持ちますが、両社の技術者が前向きに熱く議論を交わし、お互いの要望を盛り込み、それぞれで差別化もできた共同開発車となっています。
bZ4Xを駆ればそれはトヨタだと感じますし、ソルテラに乗ればスバルらしい走破性を感じることができます。
実際、リアサスペンションには、スバルらしさが感じられるこだわりのセッティングを施しています。
外観デザインは、スバリストに「こんなのが欲しかった」と思わせるほどに洗練されています。
ただ、運転支援機能がアイサイトではなく、トヨタのセーフティセンスであることは残念に感じるでしょう。
これは、トヨタの「e-P/F2・0」と呼ばれる電子プラットフォームを車両のベースにしており、アイサイトに対応するには時間不足だったと察します。
しかし、今回の大切な課題は、スバルの未来を左右するBEVへの第一歩をいかに踏み出すかにあったわけで、その成果は挙げたと実感しました。
筆者が最も驚いたことは、ソルテラの米国市場での反響です。
2月に先行して米国で予約が始まったのですが、7000台の初期ロットはすでにソールドオーダー(確定売約)に近い状態なのです(※執筆当時)。
スバルの米国での平均販売単価は3万4000ドル前後ですが、5万ドルのソルテラにスバルユーザーが殺到したことは、スバルの未来にふたつの光明が差したと言えるでしょう。
第一に、電気で生み出す「スバルらしさ」という新価値を認められたこと。第二に、5万ドルという、同社には新境地の価格帯でのビジネスに展望が開けたことです。
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