熊本市生まれの熊本市育ち。ハンドルネーム「くう」こと久美さんが長年乗っていた大型トラックを下りる決心をしたのは2010年の春のことだった。
しかし92年に大型ダンプに乗ってからここに至るまで、くうさんがトラックと共に走り抜けた軌跡は、決して平坦なものではなかった……。
ドライバーに憧れ、16歳でトラックを運転し始めたくうさんに、女性ドライバーとしての約18年間の思い出を語ってもらった。
文/火の国の女性ドライバーくうさん 写真/フルロード編集部
*2010年5月発行トラックマガジン「フルロード」創刊号より
トラックに乗り始めたきっかけは?
私なんかの話が記事になっていいものかどうか悩みましたが、一般の人達にトラックやトラックドライバーの仕事のことを理解していただければ嬉しいし、それに少しでも全国を走るドライバーさんの励みになればと思い、お引き受けしました。
でも、何からお話しましょうかね。
トラックに乗っていて一番よく聞かれるのが「なんでトラックに乗っているの?」という質問です。私の場合、小学校3年生の時の出来事がきっかけでした。
友達を追いかけて校門を飛び出たんです。あまりクルマは通らない道だったので油断していたんですね、道の真ん中まで出たところで急ブレーキの音。それに驚いて立ち止まってしまい、2tトラックと危うく接触って事態になりました。
すぐにトラックから若い男の人が降りてきて私のところに走って来たんです。怒られると思って身を固まらせたら、その運転手さんは私の両肩を掴んで「大丈夫? 怪我してない?」って、本気で心配してくれたんです。
「飛び出してごめんなさい」って謝ると「当たってないなら良かったよ。驚かせてごめんね」。そう言って私の頭を撫でて笑顔でトラックに乗って去って行きました。爽やかで優しくてあんな大人になりたいと思いました。
子供の心って不思議ですよね。そんな小さな出来事がきっかけで、それからは「いつかはトラックに乗りたい」という思いが募るばかり……。それが昂じて「トラックの運転手に学歴は要らない」と思い始めて、学校で勉強する意味がわからなくなってしまったんです。
その頃、県内でも有名なお嬢様学校に通っていて、成績も悪くなかったから両親には大反対されましたが、「お金を貯めて運転免許を取りたい」の一心で、高校を中退し、お弁当屋さんでバイトを始めました。
たまたま毎日買いに来てくれるお客さんの中にダンプカーの運転手さんがいて、その人と仲良くなったんです。バイトをしている理由を話すと、「うちで働かないか? 運転も練習できるよ」と言われたんです。その仕事場は採石場、私が16歳の時のことでした。
16歳で大型ダンプを運転
出社初日に事務所に行くと、社長に「わからないことはコイツに聞いてな」と一人のオジさんを紹介されました。でも挨拶をしても私と目も合わせてくれず「なんで俺がこんなガキの世話なんかしないといけないんだ」って社長に食ってかかっていました。
嫌な感じの人だなと思ったけど文句は言えません。
ひととおり場内の説明を受けた後に「大型ダンプを運転できないなら仕事にならねぇから、まずは運転から覚えろよ」。そう言われて鍵を受け取りました。
構内専用のナンバープレートが付いてないメッチャ古い大型ダンプで、喘息持ちの私には辛いぐらい、それはそれは汚かったです。
今まで軽自動車の運転すらしたことがなかったのですが、採石場の構内なので大型車を運転してもなんのお咎めもなし。それは嬉しいのですが、乗り込んでエンジンをかけようと鍵を回しても、ウンともスンとも言わないんですね。クラッチはメチャメチャ硬くて踏めないし……。これには焦りました。
しばらくしてオジさんが戻ってきて「何やってんだ? チョーク引かないとかかるわけないだろ!? どけ!」と怒鳴られて、おとなしくダンプを降りました。降りたら降りたで「なんで降りるんだ。寝台に乗って見てないとわからないだろうが」って怒られましたけどね(笑)。
その後は文句を言いながらもエンジンのかけ方や運転操作をわかりやすく教えてくれて、その日はずっと砕石場の隅っこで運転の練習をしていました。
今のトラックはクラッチがすんなり入るけど、私が乗っていたダンプは本当に古かったから、ダブルクラッチを切らないとギアが入らなかったんですよ。はじめはまともに運転できなくて、こんなんでトラックに乗れるのかって、正直ヘコみましたよ。