イジメと偏見そして性暴力に立ち向かった或る女性ドライバーの物語 火の国の熱きトラック乗りくうさんの素顔の自叙伝【前編】

採石場の仕事

 一週間が過ぎた頃、世話役のオジさんが来て「少しはまともに動かせるようになったじゃないか。じゃあそろそろ仕事を覚えてもらおうか」と言われて上のほうを指さされたんです。オジさんが指す方向を見上げると、切り崩した山しかありません。

 「上ではUターンできないから、あそこまでバックで上がって行って」と言われて固まってしまいました。

 右は切り崩した壁で、左はミラーに地面が写ってないんですよ。死ぬ思いで上がっていくと、上でパワーショベルを操作していた人に「運転したことないんだろ? ここを上がってくるなんて、なかなかやるねぇ」って褒められました。

 降りるのも本当に怖かったけど、毎日やっていたら慣れるもので、右のミラーだけしか見ずに上がれるようになっていました。

 採石場には毎日いろんな会社のダンプが入って来ていました。私は仕事を覚えるために場内のいろんな仕事をやらされていたのですが、ある日、パワーショベルに乗って砕石をダンプに積んでいた時に「お前、遅いから誰かと代わってよ」って言われたことがあります。

 本当に悔しくて「見返してやる」と思って毎日必死になって練習したものでした。1カ月経った頃には「丁寧だし早いから毎日パワーショベルに乗っていてよ」って言われるようになりましたよ。

イジメと偏見、そして性暴力

 でも、いつからか職場でイジメに遭うようになったんです。「なんかした?」って聞いてもニヤニヤと笑って何も答えてくれません。

 小耳にはさんだ理由は「女ってだけで目立つのに、あんなに仕事するから俺達が仕事してないふうに言われるんだ」って理由でした。意味わかりませんよね。「女だから」とか「女のくせに」とか言うような男性は、器が小さいなって思いました。

 今は女性ドライバーなんて珍しくもない存在になりましたが、当時は女性ドライバーを見ることなんてないぐらいの世の中でした。その頃は、女性は深夜10時か11時以降は働けない時代だったし、「セクハラ」って言葉もありませんでした。今は女性でも働きやすい環境ですね。優しい世の中になったと思います。

 イジメは、出勤したらタイムカードがなかったり、私のロッカーが壊されていたり、私が専属で乗っていたダンプにイタズラされたり……、やっていることはガキみたいなことばっかりだったから、あまり相手にしていませんでした。

 しかし、実は犯罪に近いこともされたんですよね。あまり言いたくないんですが、レイプ未遂事件っていうのがありました。

 山の頂上だったから叫んでも誰にも聞こえなくて、でも男の力には勝てなくて……。あの時、他社の運転手さんが上ってきて、気づいて助けてくれたから何事もなく済みましたが、本当に男性不信になりました。

 その人は解雇されたのですが、それくらいじゃ心の傷は癒されません。ずっと引き摺っています。

 「あの女は社長とデキてる」なんて噂を立てられたこともありました。直接聞かれたこともあったし、「俺にもやらせろよ」なんて言われたこともありました。でも私は火の国生まれの女、その場で殴り飛ばしていましたよ(笑)。

 イジメは続きましたが、ずっと後になって嬉しい話を聞きました。入社した時に私の世話役をしてくれたオジさんがずっと私の味方をしてくれていたそうなんです。

 あんなに面倒臭そうだったし、怒られてばかりだったし、一人でやれるようになってからは挨拶ぐらいしかしていなかったのに、嬉しくて泣きましたよ。「アイツは誰よりも頑張っているんだ。人のことを気にする暇があるなら仕事しろ」って言ってくれたらしくて……。

 人は外見だけじゃわからないってことを学びました。私の恩師の一人です。

《後編につづく》

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