逆輸入車は、国産メーカーの海外生産車が日本に逆輸入されるケースと、国産メーカーの海外向け輸出車が再び日本に再輸入されて売られる場合のふたつがあるが、今回は前車について紹介していこう。
逆輸入車は、おしなべてあまり売れない。もともとあまり数が売れないと見込まれたからこそ、国内で生産せずに逆輸入となったモデルなので、当然といえば当然だが、それにしても売れない。
しかし、なかには売れた逆輸入車があるかもしれない。いや、きっとあるに違いない。
はたして「売れないというジンクスを破った逆輸入車」は、ほんとにあるのだろうか? モータージャーナリストの清水草一氏が迫ってみる。
文/清水草一
写真/ベストカー編集部
■意外に多い現行車の逆輸入車たち
個人的に印象深いのは、オランダのネッドカーで生産された三菱カリスマ(1996年~)だ。猛烈に凡庸な1.8L中型セダンながら、欧州仕様そのままだったので、「フツーの国産車に比べてシャーシ性能が段違い!」「欧州向けの国産車ってこんなにいいのか!」と感動したものだ。
カリスマは日本でまったく売れなかった。地味さもあったが、逆輸入のため値段が高かったことが最大の要因。同様の例としては、初代トヨタアヴェンシス、日産マイクラCCなどがある。
逆に、タイで生産され逆輸入されている現行ミラージュやマーチの場合、値段は国内生産車と同レベルながら、質感が低いからか販売不振が続いている。
正確には、マーチは逆輸入車としては非常に台数が出ているが(2018年の国内販売台数/1万2122台)、国内生産だった歴代マーチに比べると、数分の1に販売を落としている。
別にタイ生産だから質感が低いというわけではないだろうが、主にアジア向けのクルマなので、需要に従った作りにした結果、そうなったのだろう。
近年、逆輸入に熱心なのがスズキだ。2008年にハンガリー(マジャールスズキ)製のスプラッシュを嚆矢(こうし)に、現在はSX4 S-CROSS、エスクードが同じくハンガリー製。そしてインド(マルチスズキ)製のバレーノも販売している。
しかし、どれも販売台数は雀の涙程度。2018年の年間販売台数は、SX4 S-CROSSが1282台、エスクードは2248台。なかでもバレーノは912台と、月平均100台も売れていない。「なぜ逆輸入しているの?」と訝(いぶか)しんでしまうほどだ。
逆輸入車は売れない。それがジンクスだが、そのジンクスを打ち破って、それなりに売れた(売れている)モデルもある。今回はそんなクルマたちの列伝を書いてみよう。
■ジンクスを破った逆輸入車列伝1/アコードクーペ
国産メーカーの逆輸入車の第1号は、1988年4月に発売されたアコードクーペだった。ホンダのオハイオ工場で生産されたアコードクーペは、左ハンドルのまま日本に輸出された。
私はちょうどその頃自動車メディアに関わるようになったばかり。アコードクーペの広報車を青山通りの青山学院大学前に横付けして観察したところ、多くの学生から「あ、左ハンドルだ」「アコードクーペじゃん」といった声が漏れ、かなりの注目を浴びたのを覚えている。
当時はバブル期で景気は非常によかったが、それでも一般的な日本人にとって、輸入車はまだ高嶺の花。だからこそ左ハンドルへの憧れは強かったし、国産メーカー車であっても、アメリカの香りのするアコードクーペは、「シブイ」「カッコいい」と、かなりの人気になったのだ。
アコードクーペはその後、1990年3月から2代目が、1994年2月からは3代目が逆輸入されたが、物珍しさや逆輸入車の特別感は徐々に薄れ、最終的には不況やクーペ人気の下降もあって、1997年をもって逆輸入終了となったのでした。
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