一般的なAT車において、走行中にNレンジを使うことはまずないと思う。しかしなかには、渋滞や信号待ちなど、長く停止する際に、Nレンジに入れてパーキングブレーキをかけて待機する、という人が一定数いるという。
はたして、信号待ちなどでNレンジを使うことは正しいのか、それとも間違いなのか!??
文:吉川賢一
アイキャッチ画像:Adobe Stock_あんみつ姫
写真:Adobe Stock、写真AC、HONDA
疲労軽減や誤発進抑制、燃費削減のため
実は筆者も、マニュアル車を運転しているときは、Nレンジに入れて信号待ちをすることがある。クラッチペダルとブレーキペダルを同時に踏んでいる状態が辛いためだ。Nレンジに入れ、サイドブレーキを引き、クラッチペダルから足を離して待機したほうが疲れない。しかしながら、AT車ではNレンジを使うことはない。
この「信号待ちでNレンジ」は、タクシーに乗るとよくみる光景だ。運転のプロフェッショナルであるタクシードライバーがやる理由のひとつは、「ブレーキを踏み続けると足が疲れる」からだそう。特に年配のドライバーに多いようで、信号待ちになるたびにNレンジにいれてパーキングブレーキをかけ、ブレーキペダルから足を外して待機する癖がついてしまっているようだ。ブレーキペダルを踏む力が無意識にゆるむことで誤前進することを防止するために、Nレンジとパーキングブレーキを使うドライバーもいるという。
タクシーならではの理由としては、アイドリングで発生するエンジンの「ブルブル」とした振動を遮断するため、ということもあるそう。後席側へ振動を遮断して快適に乗ってもらう、という気配りの一環だ。また、燃料削減を狙って、Nレンジを使うドライバーもいるという。アイドリングによってトルクコンバーター(以下トルコン)に負荷がかかり燃料を消費してしまうことを避けるため、Nレンジにいれ、トルコンにかかる負荷を軽減し、燃料消費を少なくする、という考えだ。
どれも技術的に解決しており、意味がなくなってきている
どれももっともらしい話だが、最後の「燃料削減」については、アイドリング中であることをクルマが検知すると、ミッション内部のクラッチを切ってニュートラルと同様にする「ニュートラルアイドル制御」という技術が、すでに2000年ごろから採用されており、昨今のクルマにおいて、Nレンジにいれたほうが燃費がよくなる、ということはまずない。もちろんそれ以前のクルマならば効果はあるかもしれないが、技術が投入されはじめてからすでに20年ほど経過していることを考えれば、現役で走行している大半のクルマでは効果がないといっていいだろう。
また、「ブレーキペダルを踏み続けると足が疲れる」という理由に関しても、昨今の新型車では、オートブレーキホールド機能によって、必要なくなる。オートブレーキホールドは、筆者のクルマの場合、完全停止後にブレーキを強めに踏み込むとブレーキホールド(ブレーキが利いたまま)がかかる。もちろん無意識にブレーキペダルを踏む足の力が緩んでしまうことで誤発進してしまうことも避けられる。
また、Nレンジでサイドブレーキを引いた状態での待機だと、ブレーキランプは消えてしまうが、ブレーキホールド中はブレーキランプが点灯するので、後続車に知らせる意味でも効果がある。まだまだ搭載していないクルマも多いオートブレーキホールドだが、これが普及することで、信号待ちでNレンジへ入れるメリットはほぼなくなる。
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