車には同じ車種でもさまざまな「グレード」があり、安価なグレードよりも上級グレードのほうが、走行性能が高く、装備も豪華で乗り心地も良い…と一般的には考えられている。
しかし、特定の車種では、その図式が当てはまらない場合もある。なぜか? それは、グレードごとに採用しているタイヤの種類とサイズが違うからだ。
近年、タイヤの大径化が進み、18インチ以上の「扁平タイヤ」を履く車種が増えてきた。扁平タイヤは、文字通り薄く平べったいタイヤのこと。ドレスアップ志向の高まりもあり、「薄くて大きなタイヤ」を装着するモデルが急増している。
扁平タイヤは乗り心地面で不利な場合もあり、実は同じ車種でも「小さくて厚みのあるタイヤ」を履く安いグレードの方が乗り心地が良いケースも少なくない。
そこで、「安い方が乗り心地が良いクルマ」を挙げながら、良い乗り心地とは何か? も合わせて解説。実は、ここ数年でその定義は大きく変わりつつある。
文:松田秀士
写真:編集部、HONDA、SUBARU、MAZDA
変わりつつある“良い乗り心地”の定義
まずは、乗り心地とはどういうものか? という基本的なところからお話ししよう。
例えば椅子だ。それもデスクなど、長時間同じ姿勢で座って仕事や勉強をするときの椅子。座面や背もたれなどがフワフワしていると、最初は心地よいがだんだんと姿勢が乱れ背中や腰が痛くなる。
逆にカッチリとした表皮だと、姿勢をある程度任せられるので楽。だが、座面の限られた部位に集中して体重がかかるので痛くなる。
この2つのどちらが座り心地が良い、と判断するのか? つまり、椅子一つにしても用途別の座り心地があるということ。これが車の場合も似たようなことが言えると考えるのだ。
いわゆる“乗り心地が良い車”は、サスペンションがソフトで、路面からの突き上げをスムーズにいなす。というのがこれまでの常識。モデルによってはそういう伝統を大切にして、現在も乗り心地を作り上げているモデルもある。
しかし、最近の流行はサスペンションはそれほど動かず、路面のアンギュレーションに対してボディも一緒に上下するモデルが多い。これはサスペンションを硬くすることで、高速でのコーナリングや直進安定性を上げることができるから。
つまり、走りに余裕があり、ドライバーの安心感も高い。逆に前述したように乗り心地は硬いが、突起を通過する最初の突き上げの瞬間をマイルドにすることで、乗員が感覚として乗り心地を悪く感じない、というギミックを使っているのだ。
また、硬い方が凸凹通過後のサスペンションのバウンシング(=共振)収束も少なく早い。つまり、時間軸とショックの受け方を工夫することで、乗り心地を達成しているのだ。
これは、近年の車のボディ剛性が圧倒的に高くなってきているからできること。人の眼にはビデオカメラでいう手振れ補正が付いているから、いつまでもバウンシングしているよりも、短い時間で収束する方がかえって疲れにくい、という見方もできるのだ。
このようなことを統合して、現代の車は乗り心地を語らなくてはいけない。
で、何が言いたいかというと、今回のお題である小さくエアボリュームの大きなタイヤを履く安いモデルの方が乗り心地が良い、という昔ながらの通説は通りにくくなってきている、ということ。
なぜなら、メーカーは大径タイヤに重点を置き開発するから。しかし、そうはいっても走って乗ってみると、「いや、やっぱり小さくて安いこっちのタイヤの方がいいんじゃないの」というモデルもあるのだ。
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