2019年7月4日より公示された第25回参議院議員通常選挙は、令和初の国政選挙だ。新たな国民の代表を選出するための熱戦が開始される。
その中で清き一票を手にするために欠かせないものといえば、PRの要となる選挙カーだ。
昼夜を問わずに大きなスピーカーで名前を連呼して走る姿に、もしやすると迷惑に思っている人も多いかもしれない。
しかし、選挙カーの実態は意外と知られていない。今回は、これから全国各地で活躍する選挙カーについて掘り下げてみた。
文:大音安弘/写真:AdobeStock, PAKUTASO
■病院や学校の周りは街宣禁止!! 厳密な選挙カーのルール
選挙運動用自動車。通称、選挙カーといえば、クルマのルーフにスピーカーと候補者の看板を装着した乗用車を思い出す。
ワンボックスカーのイメージが強いが、最近はコンパクトカーなど様々なクルマが使われていることが多い。
自由度が高いように思えるが、この選挙カーについても、選挙活動のルールを定めた公職選挙法に詳しく記載されている。
候補者が使えるのは、1台のみ(参議院合同選挙区の場合は、2台まで)。車両については、車種の制限はないものの、普通乗用車もしくはライトバンに限定。
但し、町村の長、議員の選挙では、小型貨物自動車も使えるようだ。乗員は、候補者と運転手を除き、4人以内とされている。驚いたのが、選挙運動車の代わりに、船を使用することもできるということ。多くの離島を持つ島国である日本らしいルールといえよう。
選挙カーの活動は、日中に、挨拶と候補者名の連呼をウグイス嬢が行っているイメージだが、これは、選挙カーによる放送と街頭演説が8時から20時までに制限されているため。
さらに走行中は、一定の制限の元で連呼行為しかできない。もちろん、停車時なら、演説活動が可能となるが、逆に連呼行為は禁止される。
そこで気になるのが、スピーカーの音量。正直、うるさく感じることも多い。この点については、特に規制はなく、候補者の判断に委ねられているようだ。
ただ学校や病院などの医療施設などの周辺では静粛を保持しなくてはならないとされている。選挙カーのルールで、意外だったのは、運転者以外のシートベルトの着用義務が免除されること。
これは道路交通法の第26条の3の2に明記されている。もちろん、窓から大きく身を乗り出す(ハコ乗りなど)といった危険行為は禁止され、取締りの対象となるようだ。
しかしながら、交通安全の意識改革が求められる今、選挙活動のために、シートベルト不着用が認められるというのは、時代錯誤のようにも思えるのも確かだ。
■ガソリン代は税金から?? 意外に安い選挙カーのお金事情
さらに選挙カーのお金の事情についても調べてみた。選挙カーは、候補者独自で準備するが、候補者を表示する看板、取付用キャリア、アンプやスピーカーといった音響機器など必要な用品は意外と多い。
このため、選挙カー専門のレンタカー業者も多数存在する。ある業者の料金を例に挙げると、日産マーチベース場合、1週間で約30万円と高価。
しかし、音響機材と看板製作及び装着、自動車保険まで含まれるので、候補者にとっては、コストと準備時間を削減できる便利な存在のようだ。
また選挙カーの費用については、一部を除き、公費の補助が受けられる。上記のマーチの場合だと、自己負担は20万ほどとなるようだ。
もちろん、車両が大型化するほど、費用負担も増加する。このため、近年は小型の選挙カーの人気も高い。またガソリン代については、全て公費負担となるそうだ。
この選挙カービジネスには、タクシー会社も参戦しており、タクシーに看板や音響設備を装着し、さらにドライバーまで派遣するという。
候補者や選挙スタッフも精神的に厳しい環境に置かれる選挙だけに、プロドライバーの派遣は心強い味方となりそうだ。
しかしながら、最も驚きだったのが、現行の公職選挙法では選挙カー無しの選挙活動は、事実上、不可能ということだ。
自動車以外の乗り物は、選挙カー扱いとならないため、看板や拡声器を使うことができなくなるためだ。
ただインターネットの活用や選挙活動による環境負荷の軽減など、選挙そのものの在り方が変わっていけば、選挙カーという存在が消える日が来るかもしれないが、現時点では、選挙カーは、候補者にとって欠かせないものなのだ。
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