スカイライン、フーガ…売れなくてもセダンを用意し続ける理由

スカイライン、フーガ…売れなくてもセダンを用意し続ける理由

「なぜ自動車メーカーは、売れないクルマをラインアップに残しているのか?」と聞かれた事がある。

 たしかに、ほとんど売れていないクルマを残しておくことは、無駄である。販売店であるカーディーラーでは、カタログの印刷や社員の教育、広告費など、ラインアップに残しておくことでかかるコストは、馬鹿にならない。

 自動車メーカーの意地や見栄として捉える方もいるかもしれないが、実のところ、売れないクルマをラインアップしておくことには、自動車メーカーの巧妙な作戦があるのだ。

 元日産自動車のエンジニアだった筆者が、こっそりとご紹介する。

文/吉川賢一
写真/TOYOTA、NISSAN 、編集部

(画像ギャラリー)8月度に売れたセダン、ベスト8!


■どうして売れないのにセダンのラインアップが多いのか?

 トヨタ クラウンの例外を除いては、日本ではセダンがほとんど売れていない。今日時点、世界中でセダンタイプがまだ売れているのは、中国くらいだ。

 しかしそれも時間の問題で、中国でもSUV人気は増してきており、遅からず、セダンはSUV人気に飲まれるだろうといわれている。

 ところが、どの自動車メーカーもセダンのラインアップを比較的充実させている。

 少し調べると、日産は5台(シーマ、フーガ、スカイライン、ティアナ、シルフィ)、トヨタは11台、ホンダは7台と、意外なほどに、セダンは多くラインアップされている。

 ただ、売れ行きはというと、日産のすべてのセダンの販売台数を足しても、ノート1車種の販売台数に到底及ばない。

 なぜ、セダンのラインアップを残しているのか、ヒントは「いつかはクラウン」にある。

自動車メーカーのセダンカテゴリで表示されたラインアップ ※2019年9月時点

■「いつかはクラウン」にハマりやすかった日本人

「いつかはクラウン」は、1983年にデビューした7代目クラウンで使われていたキャッチフレーズだ。

1983年8月に発売された7代目クラウン。「世界最高級のプレステージサルーン」を目指して開発された

 高級車であるクラウンを、憧れの存在のクルマに昇華させ、「いつの日かお金持ちになって乗りたい!」という、日本人の成長意欲や、昇進してたくさんお給料をもらえるようになりたい、という情熱を表現したことで、クラウンの販売を大いに活気づけた、有名なキャッチフレーズである。

 クラウンほどの高級車でなくとも、普通に新車を買えば300万円くらいはかかる。それを購入してもらうためのアプローチ方法には、主に次のような手法が使われている。

 ひとつは、「機能的な価値」を訴求すること。例えば、燃費のよさや航続距離の長さ、最高速度、加速性能、ブレーキ制動距離、最近だと運転支援装置のありなしなど、入手することで恩恵が得られる「価値」をアピールするのだ。

 数値化して比較をすることができる反面、他商品に対し、大きなアドバンテージがないことが多い。

 もうひとつが「情緒的な価値」を訴求することである。商品やサービスに差が付きにくい現代では、簡単には選んでもらえない。そういう時代だからこそ、「いつかはクラウン」のような「憧れ」がキーワードとなる。

「上級クラスのいいクルマに乗りたい」、そして、「上級クラスのクルマに乗れるようになった自分はえらい」……「いつかはクラウン」は、経済発展真っ只中にあった、当時の日本人の上昇志向を煽った。

 ご存じの通り、この「クルマ」と「出世欲」をつなげたマーケティングは、大成功した。

 トヨタも日産もホンダも、ラインアップにヒエラルキー(階層構造)を作っている。これはお客様に、「もっと上を目指したい」という欲を抱かせ、同時に「まだ下にもある」という優越感を感じさせるためである。

 このために、売れなくてもラインナップを揃えておく必要があるのだ。

 古い考え方に聞こえるかも知れないが、このロジックにはまっている方は、意外と多い。もちろんこれはセダンに限ったことではないが、SUVよりもこの意識が強く働くのは、歴史が長いセダン特有だろう。

ミドルクラスセダンのレクサス ES300hとホンダ インサイト。各メーカー、ヒエラルキーの最上位のフラッグシップモデルといわれるモデルは、いまだにセダンだ

◆     ◆     ◆

「フルラインアップメーカー」としての意地で、クルマを用意し続けている、のではなく、実は日本人の「人よりもいいクルマに乗っている自分はステキ」という自尊心を刺激するロジックだった、と分かると、ちょっと怖く感じるのではないだろうか。

 自動車メーカーは、お客様にクルマを気持ちよく買ってもらおうと、色々な策を考え、実行している。そして、多くの日本人は、その術中に、まんまとはまっているのだ。

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