2025年の東京モーターサイクルショーで展示され、大注目を集めたヨシムラGSX-R750 #604コンプリートマシン。10月にはこの車両がオークションで販売され、1241万円という驚きの価格で落札された。ヨシムラファン、いや、すべてのバイクファン垂涎のこのマシンを手に入れたのはどんな人なのだろうか。1月11日に行われた納車セレモニーで落札者にインタビューを敢行。ヨシムラへの熱い想いをうかがった。
⚫︎文と写真:夏目健司
スズキディーラーの代表にして、熱烈なヨシムラファン!
ヨシムラGSX-R750 #604コンプリートマシン(以下#604コンプリート)を落札したのは、奈良県橿原市の奈良スズキ販売株式会社の代表取締役、岡本眞一さんだ。同社は国内外の自動車販売店、飲食店などを展開するジーライオングループに属するスズキの正規ディーラーで、スズキの2輪車を販売するSBS奈良橿原も運営している。
1月11日、ヨシムラは自社イベントの「ツーリングブレイクタイム」を、岡本さんが経営するSBS奈良橿原で開催し、その中で#604コンプリートの納車セレモニーを行った。イベントにはヨシムラの加藤陽平社長、そしてオリジナルの#604号車をライディングした辻本聡氏も会場に駆け付け、納車セレモニーで岡本さんに特別仕様のキーと記念品を贈呈。初めて目の当たりにする#604コンプリートマシンを前に、岡本さんは感極まった表情を浮かべていた。
すでに公表されているように、#604コンプリートの落札価格は1241万円という驚きの価格となったが、岡本さんはなぜそれほどまでに#604コンプリートの落札にこだわったのだろうか。
「#604コンプリートがオークションで販売されるという情報を目にして、これは商売とかは関係なく、とにかく欲しいと思ったんです。じつは私は若い頃にバイクレースに参戦していたんです。もともとはスズキの社員だったんですが、スズキに入ろうと思ったのも、スズキ社内にレーシングチームがあり、そこでレースがしたかったからなんです」
「ちょうどこの頃は辻本さんが大活躍していた時代でしたが、辻本さんが当時乗っていたGSX-R750は、僕らのようなライダーにとってはとにかくあこがれのバイクだったんです。そんなバイクがオークションに出るということで、これは絶対に欲しいと思ったんです」
「ヨシムラのGSX-Rが活躍していた頃、私はまだ19歳でした。ヨシムラは私にとって別格の存在でした。バイク=ヨシムラ、スズキ=ヨシムラという感覚でしたね。鈴鹿8時間耐久レース(8耐)には今でも家族で応援に駆け付けていて、ヨシムラのスタッフのような恰好でピットの周りをうろうろしているんですよ。私がまだスズキ自販にいた頃はバイクショップの店長も経験しておりますが、お客様には、必ずヨシムラのパーツをお勧めしていました」
レースを諦めても色褪せぬヨシムラ愛
岡本さんは18歳から24歳までの間、レースに参戦していた。スズキGSX-R400で、8耐ライダーの登竜門レースだった鈴鹿4時間耐久レース(4耐)参戦を目指していた。だが当時はバイクブーム真っ盛り。600チーム以上のエントリーがあり、簡単に予選通過できる時代ではなかった。岡本さんが最後にエントリーした大会ではウェイティング(予選通過者が出走を取りやめた場合に繰り上げられる)の3番目になったものの、決勝出走のキャンセルは現れず、あえなく予選敗退となった。
「やはり4時間耐久に出られなかったことは心残りですね。いつかは国際A級に昇格して8耐を走りたいと思って頑張っていましたが、いちど鈴鹿サーキットで辻本さん、そして他の国際A級のトップライダーたちと一緒にサーキットを走る機会があり、辻本さんたちの走りを間近で見て、私とは全く次元が違う走りだったんです。そういったこともあり、レースはあきらめました」
レースからは身を引いたものの、ヨシムラに対する岡本さんの熱い想いは冷めなかった。ヨシムラはユーザーをサポートするために各地のバイク販売店と「ヨシムラパートナーショップ」契約を交わして協力体制を築いているが、岡本さんがSBS奈良橿原を立ち上げた当時、ヨシムラはパートナーショップの新規契約は行っていなかった。
だがヨシムラとその製品に並々ならない想い入れを持っていた岡本さんは、鈴鹿8耐を観戦した際に、ヨシムラのピットで加藤社長に直談判。晴れてパートナーショップの権利を得た。
「パートナーショップとなり、ヨシムラとの関係ができました。#604コンプリートを購入する前、その製作の苦労話もうかがっています」
「現在、GSX-R750は純正部品がほとんどありませんが、#604コンプリートを作るために、スタッフがパーツひとつひとつを製作している様子の動画を見せていただいたり、苦労された話を伺いました。#604コンプリートは、ボルト一本に至るまで、当時のパーツと同じ重さで完全に再現されています。それほどまでに苦労して作られたこのバイクは、購入価格以上の価値があると思っています」
岡本さんが購入した#604コンプリートは、今後SBS奈良橿原で展示される予定という。また、例えばSNSなどでの露出や、定期的に開催しているフェアなどでの展示なども検討中だ。だが岡本さんは#604コンプリートを、決して飾っておくためだけに購入したわけではない。
「会社として、今後はよりバイクに力を入れていこうとしているところですので、#604コンプリートも多くの人に見ていただき、価値観を共有できればと思っています。ですが、これはそもそもは商売関係なしに、個人的に欲しいと思ったバイクでもあるので、少しは乗ってみるつもりです。とはいえ、社員たちに全力で止められそうですが(笑)」。
納車セレモニーでは岡本さんに記念のキーが手渡された。会場に集まった多くのファンの前で、岡本さんはエンジンを始動した。セレモニー当日は寒気の到来で気温が低かったこともあったが、岡本社長の手は心なしか震えて見えた。
「エンジンをかける際はやはり緊張しましたね。ですがそれ以上に喜びのほうが大きかったです。お客様も皆笑顔を浮かべられていて、購入して本当によかったなと思いました。当店が購入したという情報はすでに出回っていて、すでにあちこちからいろんなお声が届いています。なかには落札価格以上の金額で譲ってほしいという声もありました。それほどの価値があるものだということをあらためて感じましたね」
「オークションの終盤は、ずっと1万円きざみで価格が上がっていきました。もともと11時半に終わるオークションでしたが、再入札が延々と続き、終了したのは16時でした。当日私は仕事でしたので、入札は店長に頼んでいました。最終的には自分のお金で購入するから、とにかく最後まで頑張って入札してくれと頼みました」
SBS奈良橿原では、より多くの人、特に若いライダーにバイクへの興味を持ってほしいとの思いで、販売やサービス体制の拡充等、積極的な経営を展開している。#604コンプリートの購入は、岡本さんの個人的な思いと同時に、多くのライダーにバイクの楽しさを広めるための一つの手段でもあった。
「弊社はジーライオングループの連結子会社で、私はグループのトップの田畑利彦から様々な経営理念を学びました。田畑の座右の銘のひとつに『打つ手は無限』という言葉がありますが、ヨシムラのパートナーショップになれたこと、そして#604コンプリートが手に入ったことは、田畑の言葉のように、何事もポジティブに考えて、あらゆる手段を講じた結果だと思っています」
「今日は本当に多くの方たちに来場して頂き、とてもいい納車式となりました。ヨシムラはメーカーの壁なく様々なパーツを作られています。それは、多くの人にバイクの楽しさを味わってもらいたいという想いがあると思いますが、我々も同じ気持ちです。そして若い人たちにもバイクで感じられる疾走感を味わってもらいたい。私たちは今回のようなイベントによって、バイクの楽しさをより多くの人たちに伝えていきたいです」

辻本さん(左)、ヨシムラの加藤社長(右)と。♯604コンプリートは程度良好の中古車をベースに、1986年に辻本さんがデイトナ200マイルに参戦したゼッケン604号をモチーフに制作。ヨシムラ製パーツを筆頭に数々のカスタムパーツを投入し、さらにヨシムラが手がける純正互換パーツも投入。当時風のルックスを保ちつつ、中身は最新レベルとされている。ちなみにオークションのスタート価格はゼッケンにちなんだ604万円(税抜)だった。
SBS奈良橿原
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/bikenews/511516/
【オークションで1241万円!】 ヨシムラの油冷GSX-Rコンプリートの落札者って…どんな人?【画像ギャラリー】
https://news.webike.net/gallery3/511516/511634/










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