1970年代や1980年代の昭和バイクブーム時代には、多くのライダーが当たり前のように使っていたのに、今ではすっかり廃れてしまったバイク用語はけっこうあるもの。なかでも、バイクの機能やメカなどに関するワードは、バイクの進化に伴って不要となったものも多数あります。ここでは、それらのなかで、とくに昭和のライダーには超懐かしいけれど、平成生まれなど若いライダーにはチンプンカンプンであろう5つのワードを厳選し紹介します。
文/平塚直樹
エンコ
まずは「エンコ」。エンジンが止まってしまうこと全般を意味するのですが、昭和でも、1965年生まれの筆者より年齢的に上の世代が使っていた言葉です。
今でもクラッチ操作をミスるなどでエンジンを止めてしまうことを「エンスト」といいますが、エンコはちょっとニュアンスが違います。どちらかといえば、バイクの故障によりエンジンが動かなくなったことを意味します。また、ガソリンがなくなった場合、つまり「ガス欠」のことをエンコという人もいたようです。
エンコの由来には諸説あります。例えば、「エンジンの故障」を短縮したという説。また、幼児などがだだをこねて座って動かなくなる「えんこ」を由来とし、そうした幼児の動きを乗り物に置き換えたという説などです。
ちなみに、エンコはバイクだけでなくクルマのユーザーの間でも使われていました。いずれにしろ、頻繁にエンジンの故障などが発生していた時代だからこそ、一般的に使われたのがエンコ。バイクでもクルマでも、故障が少なくなった現代では、使う機会もあまりなくなったことで、廃れたワードのひとつになったのだといえるでしょう。
ケッチン
ひと昔前のバイクでは、エンジンスタート方式にセルスターターではなく、キックを使っているモデルも数多くありました。例えば、ヤマハ・SR400など空冷単気筒エンジン搭載車などです。そして、そうしたバイクでは、キックアームを踏み降ろしてエンジンを始動させますが、「ケッチン」はその際に、キックアームが跳ねあがってしまう現象のことです。
キック式スタートのバイクは、キックアームを踏み降ろすことでエンジンを回転させて始動させる仕組みです。ケッチンは、そのときに、点火タイミングの狂いや進角装置の不良、キックアームの踏み降ろし方が中途半端だった場合などにエンジンが逆回転することで起こるといわれています。
とくに、昔のハーレーダビッドソンなどの大排気量車の場合は、ケッチンになるとかなりキックアームの反動が凄まじく、足を骨折してしまうなどのケガにつながることもありました。
また、小排気量バイクの場合は、キックアームの反動はさほど大きくないため、あまり大ケガには繋がりにくかったのですが、それでも、例えば初心者などでは「何度キックしてもエンジンがかからない」といったことも多々ありました。小排気量バイクでも、キックアームを踏み降ろすタイミングなどに、ある程度のコツが必要な場合もあったからです。
そのため、ケッチンにならずバイクのエンジンを始動できることは、それなりにスキルを持つ上級ライダーの証でもあったといえます。
デコンプ
「デコンプ」も、主にキック式スタートのバイクで使われた用語で、エンジンをスムーズに始動しやすくする機構のことです。「圧抜き」を意味するデコンプレッションの略で、その名の通り圧力を抜く動作を指します。エンジン始動時に、シリンダー内で圧縮される空気をシリンダー外へ逃がすことで、始動時の負担を軽減するのが主な役割です。
例えば、4ストロークバイクを始動させる時には、エンジンが回転時に行なっている以下4つの作業を一通り実施します。
1,混合気(爆発のもとになる空気)を吸い込む
2,混合気を圧縮する
3,点火する
4,排気ガスを外に出す
この4行程を滞りなく1回でも行なえれば、あとは爆発力の惰性でエンジンは回り続けます。セルモーターでスタートする方式では、これら行程を電気の力で行なって始動させるのです。
一方、キック式スタートのバイクでは、人がキックアームを踏んでこれらを実施するのですが、2の混合気を圧縮する作業が困難を極める場合も多いといえます。とくに、圧縮比の高いエンジンでは、キックアームを踏み降ろすのに相当の力が必要なこともあります。そこで、空気の逃げ道を作って圧縮をラクにしてやろうというのがデコンプ。ちなみに、デコンプには、アームを引く手動式のタイプもあれば、キックアームの動きと連動するオートデコンプというのもあります。
いずれにしろ、この機構が登場したおかげで、キック式スタートのバイクは、エンジンを掛けやすくなったことは事実。当時は、かなり恩恵を受けたライダーも多かったはずです。
燃料コック
今のインジェクション搭載バイクにはほぼなく、昔のキャブレター搭載車には当たり前のように付いていた機構には、「燃料コック」も挙げられます。これは、燃料タンクからキャブレターに送り込まれるガソリンの「開閉門」といえるものです。
主に、ON(流入)、OFF(流入止め)、RES(リザーブ・燃料が残り少ないときの切り替え)といった3つがあり、手動でレバーを回して切り替えることが一般的です。
例えば、停車時、とくに長期間走らない場合などには、キャブレターにガソリンが流入し過ぎないようOFFにします。そして、走る際には、当然ながらエンジンを掛ける前にON。ツーリングなどで、燃料タンクの残量が少なくなった場合はRESに切り替えて、ガソリンスタンドへ急ぐといった感じの使い分けをします。
燃料コックは、日頃から気をつけて使っていれば、とくにトラブルはありませんが、例えば、レバーをOFFにしたままでしばらく走ると、燃料タンクからガソリンが供給されないためエンジンが止まってしまいます。
また、RESにしたままツーリングなどで長距離走行してしまうと、燃料タンクが空になるまで走ってしまい、出先でガス欠になってしまうといったトラブルも起こりえます。
今のバイクにはない機構ですが、例えば、キャブレター搭載の絶版車などに乗る場合は、ほぼ間違いなく燃料コックが付いています。そうした場合は、使い方を間違いないように注意しないと、思わぬ失敗をするので注意しましょう。
チョーク
「チョーク」も、今のインジェクション搭載バイクにはなく、昔のキャブレター搭載車には当たり前に搭載されていた機構です。主に、冬など寒い時期に、エンジンが冷え切った状態のときに使うもので、チョークレバーを引くことで、エンジンを始動しやすくする役割を持ちます。
キャブレター搭載のモデルは、ガソリンを霧状にして空気と混ぜ合わせた混合気を作り、それをエンジンに送り込む仕組みですが、冬にガソリンが冷めていると霧化がうまくいかず、エンストしてしまったりします。そこで、チョークを使うことで、空気の通り道を狭くしたり、ガソリン濃度を高めたりして、混合気の比率を機械的に調整し、エンジンをかけやすくするのです。
今のインジェクション搭載バイクでは、電子制御で燃料噴射量や点火のタイミングもコントロールできるので、寒い時期の始動も楽ですし、エンストも起こりにくくなっています。でも、昔のキャブレター搭載車では、そうした制御を自動ではできなかったため、チョークを使っていたのです。
なお、チョークは、ある程度エンジンが温まると、徐々に元に戻すなどしないと、逆にエンストしやすくなります。そうした微妙な調整をしながら走ることも、昔のライダーにとっては、「バイクに乗るための儀式」的な感覚があり、よりスムーズに、さり気なくできるライダーが「上手い」とされていたといえます。
「手のかかる子ほど可愛い」のが昭和のバイク?
ここで紹介した用語には、昭和のバイクならではのトラブルや故障に関するものもあります。それだけ、当時のバイクには問題も多かったのですが、逆に言えば、愛車に対し「手のかかる子ほど可愛い」といった愛情が芽生えたりしたのも、昭和のバイクやライダーの特徴だったといえるでしょう。
当時はとても大変だったトラブルなどでも、今となっては懐かしい。昭和のバイクに対し、そんな思いを抱いているオジさんライダーも、筆者を含め、けっこう多いのではないかと思う今日この頃です。
*写真はすべてイメージです
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/bikenews/438163/



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