取材協力:バイク王つくば絶版車館
スーパーバイク世界選手権に勝つことだけを目的に開発されたVTR1000SPWは、2000年代初頭のホンダを代表するレーサーである。そして、そのホモロゲーションモデルとして発売されたVTR1000SP-1は、ホンダ史上に残る過激なバイクであると言える。
ドゥカティの牙城を崩すべく開発されたVTR1000SPW
VTR1000SP-1というバイクを語る上で、WSBことスーパーバイク世界選手権というレースをはずことはできない。1988年にはしまったこのレースの当初のレギュレーションでは、4気筒エンジン車は排気量750ccまでで最低重量は162kg、3気筒エンジン車は排気量900ccまでで最低重量は155kg、2気筒エンジン車は排気量1000ccまでで最低重量は147kgとなっていた。
ホンダはRC30ことVFR750Rを投入して1988年と1989年にフレッド・マーケルがチャンピオンとなったが、3年目となる1990年レイモン・ロッシュが駆るドゥカティ851 SP2にチャンピオンを奪われる。このドゥカティ851 SP2は851というネーミングながらボアアップによって888ccの排気量を得ており、翌年にはにはドゥカティ888となりダグ・ポーレンが1991年、1992年と連続してチャンピオンを獲得した。1993年はスコット・ラッセルが駆るカワサキZXR750がチャンピオンとなるが、1994年から1996年までカール・フォガティがドゥカティ916で3年連続でチャンピオンを獲得、1997年はジョン・コシンスキーがRC45ことRVF750Rでチャンピオンとなるも、1998年と1999年はドゥカティ996を得たフォガティが再び2年連続でチャンピオンとなった。
ドゥカティの無双状態となりつつあったWSBに、ホンダが下した決断は1000ccの2気筒エンジン搭載車の投入である。当時のホンダにはVTR1000FというV型2気筒エンジンをと搭載したスポーツモデルが存在したが、ニューマシンはHRCの主導でレーシングマシンとしての開発が行なわれ、そのレーサーをベースにしたホモロゲーションモデルがホンダ技研によって開発されることになった。その結果、ワークスレーサーとしてVTR1000SPWが誕生し、そのホモロゲーションモデルとして2000年VTR1000SP-1が2000年に発売され、2002年には改良版となるVTR1000SP-2も発売された。ただ、日本においては2002年に10台限定でVTR1000SP-2のレースベース車が発売されただけで、公道仕様は正規販売されていない。
ワークスレーサーVTR1000SPWは2000年にコーリン・エドワースのライディングによってWSBチャンピオンを獲得、2001年はトロイ・ベイリスが駆るドゥカティ996Rにその座を譲るものの、2002年には再度チャンピオンを獲得するに至った。2003年シーズンからは気筒数に関わらず最大排気量が1000ccまで引き上げられたため、ホンダは2004年シーズンから4気筒のCBR1000RRを投入、VTR1000SPWは4年という短期間でWSBへの参戦を終了した。
しかし、VTR1000SPWは2000年から2003年までの間、加藤大治郎やバレンティーノ・ロッシらのライディングによって鈴鹿8時間耐久レースで連続チャンピオンとなり、マン島TTレースやデイトナ200マイルレースなどでも勝利するなど成功したレーサーであったと言えるだろう。
「レーサーに保安部品を付けただけ」と言える、その車体
VTR1000SPWのホモロゲーションマシンとして開発されたVTR1000SP-1は、一言で言えば乗り手を選ぶ極めてスパルタンなバイクである。ライバルドゥカティがスチール製のトラスフレームを使用していたのに対し、極太のダイヤモンドタイプアルミフレームを採用。このフレームは剛性が高過ぎたため、SP-2においては剛性を落としてしなりを出すという改良が行なわれている。
車体は2気筒であるがスリムな印象ではなく、跨った瞬間に手強さを感じさせる。低いハンドルとバックステップが生み出すポジションは、大きく張り出したタンクの形状もあり、レーサーそのものと言っても良い。正直このバイクを街中で扱うのはなかなか気合が必要ではないかと思われた。
フロントフォークは43mm径のショーワ製倒立タイプ、スイングアームはプロアームではなく両持ちタイプが採用されている。ホイールは5スポークタイプを採用し、タイヤサイズはフロント120/70-17、リア190/50-17を採用した。ブレーキはフロントに320mm径ディスクローターとニッシン製の4ポットキャリパーを組み合わせ、リアは220mm径ディスクローターと1ポットキャリパーの組み合わせとなる。
エンジンは水冷4ストロークDOHC4バルブV型2気筒で、ボア×ストロークが100×63.6mmの999cc。VTR1000Fは98×66mmの996ccだ。90°Vツインやアッパーケース一体型シリンダーなどは継承しつつも、各部のパーツはHRCによって新設計されており、別のエンジンであると考えるべきだろう。VTR1000Fではチェーンだったカム駆動はギア駆動のカムギアトレーンを採用、鋳鉄だったシリンダーはニカジルメッキを採用している。また、吸気システムはPGM-Fiを採用し、ラムエアシステムなども装備されている。このエンジンは最高出力133PS/9500rpm、最大トルク10.7kgm/8000rpmを発揮する高回転型であり、低回転域での扱いにくさは否めない。
レースで勝つことを主眼に開発されたこのVTR1000SP-1は、「レーサーレプリカ」ではなく、レーサーに保安部品を取り付けた「ホモロゲーションモデル」であり、「扱いやすさ」や「乗りやすさ」は考えられていなかったとさえ思わせる。後期型となるVTR1000SP-2においてはフレームの剛性を調整したりサスペンションのセッティング変更によっていくらか乗りやすくなったとされるが、やはりその素性は「ホモロゲーションマシン」であり、一般的なバイクの扱いやすさとは無縁とも言えるものだった。しかし、ここまでハードコアなバイクは日本のバイク史上稀有な存在であり、ホンダのレーシングスピリッツを本気で感じさせる1台であると言えるだろう。
VTR1000SP-1主要諸元(2000・海外仕様)
・全長×全幅×全高:2025×725×1120mm
・ホイールベース:1409mm
・シート高:813mm
・車両重量:222kg
・エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブV型2気筒999cc
・最高出力:133PS/9500rpm
・最大トルク:10.7kgm/8000rpm
・変速機:6段リターン
・燃料タンク容量:18L
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70-17、R=190/50-17
撮影協力:バイク王つくば絶版車館

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