イギリスのバイクが全盛期を迎えていた頃の雰囲気を楽しむ
ギラギラと光るクロームメッキに様々な景色が映り込み、流れていく。昼間は青空を映したかと思えば、夜は闇に溶け込むようにネオンを反射させる。いま、新車でこの風情を味わえるバイクはなかなか存在しない。色々な風景を映し込みたくなって、また走り出す。往年のスタイリングを持つロイヤルエンフィールドのクラシック350は、現代的な街並みにも自然の景色にもよく馴染む。
「綺麗なバイクですね。古いバイクを大事に乗っていますね」と試乗の休憩中に声をかけてくれた方がいた。「新車なんですよ」と言うと、その方は驚いて「素敵ですね」と返してくれた。ロイヤルエンフィールドの狙いは、まさにここにあると思った。世代を問わず、「美しい」「かっこいい」「バイクらしい」と思うのがこの姿なのだ。
文/小川 勤

クラシックの歴史は1948年に発売された『モデルG2』に遡る。これはロイヤルエンフィールドが量産車に初めてスイングアーム式リヤサスペンションを搭載したモデル。その後、2008年にクラシック500とクラシック350を発売し、2022年からは新生クラシック350が日本でも発売。2025年モデルはマイナーチェンジを受けた。
こうした英国クラシックスタイルは単なるノスタルジックにとどまらず、いまでこそモダンなデザインとして若い世代にも人気が高い。そしてこの古き良きスタイルの背景には、様々な歴史がある。1960年代が終わり、1970年代に入ると世界のバイクシェアは完全に塗り変わっていった。英国バイクメーカーを中心にイタリアやドイツなど欧州メーカーが持っていたシェアは日本メーカーに支配されていったのだ。
その当時、日本メーカーはレースを席巻し、市販車の高性能化も手を緩めなかった。技術競争が激化し、そして英国メーカーは衰退。ロイヤルエンフィールドもその流れに倣うしかなかった。そんな1950〜60年代の英国全盛期のバイクを思わせるのが、このクラシック350だ。他メーカーにもたくさんのネオクラシックモデルはあるが、ロイヤルエンフィールドほど正統派英国クラシックを気取れるバイクは他にない。
バイクの高性能化は技術の進化としてなくてはならないこと。しかし、バイクの魅力は、それが全てではない。速さを求めればそこに正解があるかもしれないが、バイクとライダーのコミュニケーションにおいて大切なのは速さだけではないということをクラシック350は教えてくれる。心地よさや清々しさ、スペックに左右されないトルクに支配された気持ちの良い加速感からは、確かにクラシックバイクの香りが漂っている。
空冷単気筒をダブルクレードルフレームに搭載する英国スタイル
そんなクラシック350は、2025年にマイナーチェンジ。今回試乗したクロームシリーズの他、ヘリテージ、ヘリテージプレミアム、シグナルズ、ダークの5シリーズ、計7色をラインナップする。ユーロ5+規制に対応し、ヘッドライトのLED化なども行われている。各モデルの特徴は記事後半に紹介しているのでご覧いただきたい。
拠点をインドに移したとはいえ、ロイヤルエンフィールドはやはり本物の英国ブランドをルーツに持つメーカーならではの強さと上手さを持っている。
エンジンは空冷349cc。その中にはしっとりとしたトルク感が宿る。例えばよくライバルにあげられるHonda GB350のトルク感はもっと硬質だ。レスポンスもGB350の方がいい。好みの問題だが、僕は気持ちよさならクラシック350、速さならGB350が勝ると思っている。エンジンが高回転まで到達するまでの過程に明確な違いがあるのだ。

シンプルなコクピット。メーターはスピードのみだが、デジタル部分にギヤインジケーターも用意。丸い小さなメーターはクロームとダークに装備されるトリッパー。スマホのアプリと同期させることで簡易ナビとして使うことができる。
ここ数年で登場した多くのバイクに乗っているが、エンジンからしっとりしたフィーリングを感じさせてくれるのはロイヤルエンフィールドだけだ。とはいえ本物のクラシックバイクは、低速からこんなに粘るトルクを持っているわけではない。ロイヤルエンフィールドは最新技術で絶妙なテイストを生み出し、現代に求められるクラシックフィーリングを追求しているのだ。クラシックバイクとの共通点は『良いエンジン』というところで、良いエンジンとの出会いは間違いなくバイクライフを豊かにしてくれる。
スペック上の数値よりも、滑らかに上昇していく回転や楽々と加速するフィーリング、そしてその加速の質をライダーが気持ちいいと思う乗り味が、クラシック350のスタイリングとマッチするのだ。
そのエンジンを懸架するフレームはダブルクレードルタイプ。これもまた往年のイギリス車を思わせるディテールでとても良く、マシンの美しさに貢献している。やはりこのフレームと空冷単気筒エンジンの組み合わせは完璧だ。
撮影していると様々なところに撮影者が映り込んでしまうジレンマもあるが、この美しいメッキ率の高さも他メーカーが失ってしまったディテール。撮影のために細部を磨いていく作業もとても楽しく、何度もクラシック350を愛でている自分に出会える。
とは言いつつ、クラシック350にはメッキ以外にも様々なカラーが用意され、自身の好みやライフスタイルにフィットさせやすいのも魅力だろう。

上質なシートを装備。長時間走ってもお尻が痛くなりにくく快適。シート高が32mm下がるローシートもオプションで用意(1万4080円)。ロイヤルエンフィールドはオプションパーツが手にしやすい価格という点も大きな魅力!
ロイヤルエンフィールドや英車の歴史を紐解くのも面白い
跨ると、もはや懐かしささえ感じるオーセンティックなポジションで、どこにも違和感がない。背中を丸めてシートにドンっと身体を預け、ハンドルに軽く手を添えれば、クラシック350のいちばん良いポジションが手に入る。ホイールは前19 /後18インチ。タイヤはインドのシアット製で、ハンドリングはダブルクレードルフレームならではのしなやかさと自然さを持つ。
走り出すとすぐにギヤは5速に。ギヤを送り込む操作もとてもシルキー。高いギヤ、低い回転でのフィーリングがとても良い。350ccの空冷単気筒でこれほど身体と脳に重みのあるフィーリングを与えてくれるバイクはない。
一見、のんびりと走るバイクに思うかもしれないが、ロイヤルエンフィールドはどのバイクもハイスピード域の振る舞いを作り込んでおり、それはベテランを納得させる運動性を披露。サスペンションが腰砕けになるようなこともない。ライダーの操作を感じ取ってくれる反応もよく、峠道を十分に楽しむことができるのだ。峠に向かう高速道路では100km/h巡行も快適で、その際の振動の少なさと、エンジンのフライホイールに回転が乗る感覚はたまらなく気持ちが良いものだし、スロットルを開け続ければ120km/hも可能だった。
クラシック350のデビュー時からのいちばんの魅力は、なんともいえない優しさや温もりを感じさせてくれるところだ。機械というよりは人の温かさがあり、実に味わい深いのである。そして、僕はロイヤルエンフィールドは最新技術やアイデアを使って、『味わい』を磨き続ける唯一のメーカーだとも思っている。
パワーやトルクの数値ではない『味わい』というスペックを現代のバイクからこれほど強く感じられることは嬉しい驚きでしかない。クラシック350をきっかけに1901年から続くロイヤルエンフィールドの歴史やイギリスの文化に触れるのもとても面白いと思う。
クラシック350の7色のカラバリを見てみよう!モダンなデザインも多数!
クラシック350はクローム、ダーク、シグナルズ、ヘリテージプレミアム、ヘリテージの5シリーズを用意。クロームとダークはLEDウインカー、調整式クラッチ&ブレーキレバー、簡易ナビゲーションのトリッパーを装備。ダークは唯一のキャストホイール仕様でイメージを一新している。クラシカルなデザインだけでなく、モダンなカラーもたくさんラインナップしている。
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