ライディング時のクラッチレバーとシフトペダルの操作を省く、ヤマハの新たな変速システム「Y-AMT(YAMAHA AUTOMATED MANUAL TRANSMISSION)」。MT-09を始め、MT-07、TRACER9 GT+など、Y-AMTを搭載する車種が増えている今、改めてY-AMTの特徴に触れてみよう。
YCC-Sから始まったクラッチ操作の解消システム
市街地走行や渋滞時にクラッチ操作を解消することで、ツーリングに余裕をもたらせるシステムとして2006年型FJR1300ASに搭載されたYCC-S(YAMAHA Chip Controled-Shift)。変速は通常のシフトペダル位置にあるフットシフトスイッチ(左スイッチボックスのハンドシフトスイッチの追加選択も可能)で行なうが、クラッチレバーは装備せず、クラッチ操作は不要となる。
YCC-Sの変速は、人力によるクラッチレバー操作の代わりにクラッチアクチュエーターがプッシュレバーを動かし、シフトチェンジ操作の代わりにシフトアクチュエーターがシフターを作動させてギヤの入れ換えを行なう。その際、YCC-SはECU(Engine Control Unit)から、エンジン回転数、車速、ギヤポジション、スロットルポジションなどの情報をつねに伝達されることで、エンジン回転数とスロットル開度に応じてクラッチの動きを最適に制御。たとえばシフトアップでは点火時期を最適化し、エンジン回転数を調整することで滑らかなギヤチェンジを実現し、微速発進から加減速、全開走行までと状況に応じてスムーズな走行性能を引き出している。ただし、ライダーが積極的にシフト操作を楽しめるように「自動シフトアップ&ダウン機能」は織り込まれていない。
YCC-Sを進化発展させY-AMTへ
そのYCC-Sを基に、「高いレベルのスポーツライディングを、より多くのライダーに提供したい」というテーマで開発されたのが、Y-AMT(YAMAHA AUTOMATED MANUAL TRANSMISSION)だ。クラッチ操作不要の変速機構の開発は2000年代初頭にスタートし、2006年にYCC-SとしてFJR1300ASに搭載。2013年に電子制御スロットルを採用し、シフトプログラムの緻密さを向上。さらに、ROV(4輪のレクリエーショナル・オフハイウェイ・ヴィークル)などでもテストを行ない、進化を続けたことでY-AMTとして結実した。
FJR1300ASのYCC-Sはクラッチアクチュエーター、シフトアクチュエーターともに油圧で作動していたが、MT-09に採用されたY-AMTのアクチュエーターは電動モーターを採用して、システムのコンパクト化を実現。クラッチレバーとシフトペダルの廃止による軽量化も含めて、システム重量は2.8kgに収まっている。
YCC-Sのアクチュエーターはフレームに搭載されていたが、Y-AMTはエンジン背面にレイアウトして重量マスを集中化。また、Y-AMTはベースモデルの基本構造を大きく変更することなく車体への搭載が可能で、車体幅のスリムさも維持できる。Y-AMTを搭載したMT-09やMT-07は、MTシリーズらしさでもあるスリムで軽量な車体が損なわれず、俊敏な(アジャイルな)走りも変わらない。むしろシフトチェンジのためのペダル操作が不要となることで、ニーグリップなど下半身での車体ホールドがしやすくなり、コーナリングやS字の切り返し時にライディングポジションの自由度が向上するメリットが生じた。そして、そのホールド性の向上とクラッチ操作の不要化により、ライダーはブレーキ操作、スロットル操作に集中しやすくなり、「走りへの没入感」を得やすくなるのが特徴だ。
誰もが扱いやすさを感じられるY-AMT
YCC-SからY-AMTへ進化したことで、シフトチェンジにかかる時間(変速時間)は70%短縮し、駆動抜け時間(トルクが抜ける時間)も60%短縮。また、クイックシフターを搭載したMT-09と、MT-09 Y-AMTでの自動変速で0-400m全開加速を比較すると、どちらも10.9秒と同等のタイムを記録したという。Y-AMTはクラッチ操作不要という利便性だけでなく、スポーツ走行にも対応するスムーズなシフトチェンジも両立している。
全開走行やワインディング、渋滞時の低速走行など様々な状況に応じたY-AMTのスムーズなシフトチェンジは、ECU(エンジンの制御を司るエンジンコントロールユニット)とMCU(アクチュエーターの制御を司るモーターコントロールユニット)を通信で連携することで実現している。ECUはエンジン回転数、車速、ギヤポジション、スロットルポジションなどからライディング状況を判断し、シフトアップ時のエンジン点火と燃料噴射、シフトダウン時の電子制御スロットルをコントロール。MCUは、ECUからのそうした情報を通信で瞬時に連携し、発進時には半クラッチを使用したり、高回転時にはクラッチを完全に切らないなどアクチュエーターに指示。変速ショックを低減し、ライダーの意思に沿った素早いギヤチェンジを実現しているのだ。
Y-AMTは走行中の最適なギア選択を可能としたことで、「ATモード」ではライダーはクラッチ操作とギヤチェンジを行なわず、スロットル操作とブレーキ操作だけでライディングを楽しめる。一方、「MTモード」ではライダーのシフトレバー操作だけで、MT車と同等以上に素早いギヤチェンジが可能となり、その車両のポテンシャルを簡単に引き出せるようになっている。ただし、クラッチ操作は不要とはいえ、コーナリングのライン取り、車体のホールドや切り返し、ブレーキングといったスポーツライディングのための操作や動作は必要で、オートバイらしいライディングフィールは充分に感じられるようになっている。
Y-AMTの高い利便性がバイクの間口を広げる
Y-AMTにはライダーがギヤチェンジを行なうMTモードと、ライダーがギヤチェンジをせずに自動変速するATモードが設定されている。
MTモードには、スポーツライディング向けの「SPORT」、市街地走行からツーリングまで対応する「STREET」、雨天や滑りやすい路面向けの「RAIN」と、ライダーが任意にセッティングできる「CUSTOM(1と2の2パターン設定可能)」の計5パターンのエンジン特性を選択可能。MTモードは、ライン取り、スロットル操作、ブレーキングに集中し、「ヤマハハンドリングの世界を心ゆくまで堪能できる」ことをテーマに開発され、ライディングする楽しさやスポーツ性を体感しやすい乗り味となっている。
ATモードには市街地から高速巡航まで対応する「D」、よりスポーティなライディング向けの「D+」の2パターンの自動変速から選択可能。加速度とスロットル開度でシフトアップ、ブレーキ操作を含めた減速度でシフトダウンの変速タイミングが決定され、快適性や利便性を重視した乗り味となっている。また、ATモードでもシフトレバーによる介入操作は可能となっている。
MTモードとATモードの切り替えで、スポーツ性と快適性を両立しつつ、どちらのモードも停車時には1速まで自動でシフトダウンする機能を持ち、利便性も実現している。四輪車はAT普及率が高く、その流れは二輪車にも波及し、今後は二輪車のAT需要も高まるという予想に対応する一面もY-AMTは担っている。Y-AMT搭載モデルは大型二輪AT限定免許で運転することができるので、大型スポーツバイクをより身近に楽しめるシステムとも言える。
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/motorcycle/454075/
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