60年ほど前、バイクはみんな「丸目、空冷、メッキ仕上げ」だった。その時代の雰囲気を今なお色濃く受け継いだモデルを製造しているのが、レトロバイク好きならおなじみのロイヤルエンフィールドだ。そのフラッグシップとなる650cc空冷ツインのラインナップに、新たに登場した「Classic650（クラシック650）」。可愛らしいシルエットとカラバリが揃うが、実際の乗り心地はどうなのか？ 試乗してみた。
「クラシック」シリーズの真打登場！ 大型クラスらしい存在感のフラッグシップ
現存するバイクメーカーの中でも世界最古のブランド・ロイヤルエンフィールドは、実に1901年からバイクの生産を開始し100年以上の歴史を誇る。「ロイヤル」の名の通りイギリスで誕生したメーカーながら、1971年には生産拠点であったインドを残して本国は倒産。しかしそれ以降も生産は続き、往年の名車をそのまま残してきたという異色の出自だ。そのラインナップの中でも「クラシック」シリーズは、1951～55に登場した「Model G2」のデザインを現代に復刻させたもので、スチール製の大型フェンダーや楕円形のサイドカバー、スプリングシートなどを備えた350/500ccの2種として2008年に発売。その後排ガス規制の適合のためにフルチェンジを果たし、349ccの現行「クラシック350」に一本化されて現在に至っていた。ここに、新たに649cc空冷OHCツインという、ロイヤルエンフィールドが持つ最大排気量のエンジンを搭載し、クラシックシリーズのフラッグシップとして生まれたニューモデルが「クラシック650」だ。
今年新たに登場した「クラシック650」は、シリーズ最大排気量となるフラッグシップモデル。価格は94万9300円～99万8,800円。
2020年からラインナップされている350ccの「クラシック350」は、空冷単気筒のシンプルさとレトロさが売り。
クラシックシリーズのモデルは1950年代の「G2」。これを現代風にオマージュしつつ、シリーズは続いている。
クラシックシリーズのエンジンの曲線はイギリスの戦闘機・スピットファイアのデザインを範としているといい、イギリスのルーツを感じるヒストリーだ。
クラシック650の基本的なスタイルは、クラシック350と同様、1940～50年代のモデルをモチーフとしたもので、スチール製の大型フェンダー、丸型ヘッドライトにフォークカバーを備える正立フォーク、メッキを多用した外装類などを備えている。ホイールサイズも、フロント19インチ・リア18インチと、350と同じだ。とはいえ大きなエンジンの存在感は350よりも強く、左右2本出しとなったキャブトンタイプのマフラーも相まってボリューミー。エンジン出力は34.6kW（47ps）/7250rpmを発揮し、パワーは350（20.2PS）の倍以上だ。その分ボディサイズも、全長は約30mmほど長く、車重は約50kg重い242kgとなっている。ただし、シート高は800mmで、805mmの350と大差はない。
エンジンは648cc、空冷OHC2気筒で47PSを発生。高出力ではないが、美しい造形と力強いトルクを発揮する。
エキゾーストは2本出しのキャブトンタイプで、やや左右に開いたレイアウト。
オイルクーラーを標準装備しており、大排気量の空冷でも安定した燃焼を実現する。
ディテールには350と共通する部分が多く、特にヘッドライトはメッキ仕上げのバイザーに、「タイガーアイ」と呼ばれるポジションライトが装着されたケースで、クラシックシリーズ共通の意匠となっている。またその上部は「ナセル」として三角形の風を切るデザインが施されており、これも特徴的なデザインだ。メーターはアナログスピードメーターをメインとし、トリップメーター、オドメーター、燃料計を表示するデジタル画面がある。特筆すべきは右下の丸い液晶で、こちらはスマホ連携によって、矢印で進路を指示するターンバイターンナビを表示が可能。レトロな外観にマッチしたモダンな装備だ。
灯火類はLEDで、ヘッドライトには特徴的なバイザーと、「タイガーアイ」と呼ばれるポジションライトを備える。これは350と共通だ。
メーターはごくシンプルなアナログと、ターンバイターン式ナビを表示できる液晶モニタを備える。
スイッチボックスもシンプルの一語だが、アルミ製で質感は高い。
スチール製のタンクは容量14.8L。ピンストライプはなんと手描き。
ホイールはフロント19インチ、リア18インチの大径。もちろんABSは装着済だ。
最近珍しい長いフェンダーは前後ともにスチール製。リアショックはツインでこれもクラシカル。
シートは前後セパレートで、ピリオンシートを外してシングル化させることも、キャリアを装着することもできる自由度がある。
ハンドルはフラット&ワイドで、ポジションは上体の起きたスタイルとなる。
気になる足つきは可もなく不可もなく。引き起こしは重い！
さて、実車を見てみるとまず気になるのはその大きさ。クラシック350にも乗ったことのある私だが、スペック上の数値は大して差はないものの、やはり650cc――大型バイクらしく大柄だ。その理由は左右出しのマフラーの存在感や、アップライトなハンドル位置にもあるだろう。また、現代のバイクではほぼ見ない大きなフェンダーも、ホイール周りに重厚感を与えている。
跨ってみると、まずその引き起こしの重さで「おっとっと」とよろめいた。スチールパーツの多さが原因か、サイドスタンドで傾いた車体を起こすのには多少の力が必要だ。そして足つきに関しても、テールに向けて広がった鞍型のシングルシートが大きく、結構足を開かされる。このため身長165cmの私だと、つま先プラスアルファが接地する感じ。足つき良好とは言えない。片足を下ろした状態でも、べったり足を着くのは無理である。
ところが面白いのは、重く、足つきも微妙と言いつつ、重心のバランスがよいためか一度起こしてしまうとその重さがほとんど感じられないのは不思議だ。ふらふらする感じはなく、むしろ車重はどっしりと安定感に繋がっている。
私の身長は165cm、体重は50kg。シート高は800mmとされているが、サスはあまり沈まず足つきはよろしくない。
両足を下ろすとつま先が接地できている程度。しかし重心バランスがよく、ふらつくことはないのが嬉しいポイントだ。
走り出せば軽快で素直なハンドリングが楽しい
このバランスの良さは走り出すとさらに如実になってきた。なにしろハンドルがとても軽く、きつめなコーナーでも自然にゆだねることができ、重いバイクにありがちな緊張感が全然ない。しかしクイックなハンドリングというわけではなく、18インチという大径ホイールのおかげもあってか、鷹揚で穏やかな雰囲気ともいえる。これはクラシック650が兄弟機と異なり、剛性の低めな正立フォークを備えていることも理由のひとつになるだろう。
エンジンパワーは大型バイクとしては低めで、車重も相まってけしてすごくパワフルというわけではない。しかしトルクは十分であり、低回転では空冷ツインらしい振動、歯切れのいい排気音で加速してくれ、スポーツバイクとは違う牧歌的なクルージングが非常に楽しいのも魅力だ。さらにスロットルを開けば、速度の乗りこそ穏やかながら、高速道路程度の流れには簡単に乗ることができた。100km/h以上の高速域では苦しいクラシック350に対して、排気量なりの余裕を感じられるポイントだ。
低い排気音で迫力があるエンジンだが、走りはどっしりと落ち着いている。
コーナリングも鷹揚としていて、攻める走りは向かないものの、心地よい旋回を楽しめる。クルージングが快適だ。
最初の大型、そして最後の大型になれるバイクだ
半世紀以上前のバイクの姿を愚直に残す「クラシック」シリーズ。クラシック650はそのトップモデルらしい保守的なディテールを持ちつつ、洗練された設計と乗り心地が魅力的な新モデルだった。引き起こしの重さや足つきなど、シンプルなマシンと侮れない要素はあるが、慣れ次第で気にならなくなれるだろう。大型二輪クラスの入門機としてももってこいといえる。もちろんビギナーのみならず、リッタークラスの重さや速度域を知っているベテラン、あるいは往年のクラシックバイクの世界にあこがれた世代にとっても、本機の世界感は面白く感じられるだろう。まだ遠い想像だが、私が「人生最後の大型バイクを選べ」と言われれば、本機はその有力な候補に挙げたい。
クラシック650（2025）主要諸元
・全長×全高×全幅：2315 × 1124 × 900mm
・ホイールベース：1475mm
・シート高：800mm
・車両重量：242kg
・エンジン：空冷4ストロークOHC4バルブ2気筒 647.9c
・最高出力：34.6kW (47ps)@ 7250rpm
・最大トルク：52.3Nm @ 5650rpm
・変速機：6段リターン
・燃料タンク容量：約17HL
・ブレーキ：F＝ディスク、R＝ディスク
・タイヤ：F＝100/90-19、R＝140/70 R18
・価格：94万9300円～99万8,800円
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/motorcycle/485976/
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