危険運転致死傷罪に関する要件を見直し、ドリフトやウイリーで死傷事故を起こした場合に危険運転を適用することを検討中。また一般道、高速道とも40~50km/h超の速度違反による死傷事故も危険運転扱いとすることが検討されている。このように危険運転の基準を明らかにし、罪が軽くなるケースを防ぐ狙いだ。
文/沼尾宏明
タイヤを滑らせたり、浮かせる走行を危険運転に。バイクも対象だ
現行の危険運転致死傷罪は「制御が困難な高速度」や「アルコールで正常な運転が困難」といった状態で死傷事故を起こした場合に適用される。しかし具体的な数値基準はなく、大幅な速度オーバーや大量の飲酒でも、不注意による「過失運転致死傷」にとどまり罪が軽くなるケースも多い。
また、2013年には京都府で乗用車がドリフト走行でガードレールに衝突し、集団登校中の小学生5人に重軽傷を負わせる事故が発生。だが、2015年の判決で大阪高裁は「規定がない」とし、危険運転が適用されなかった。
見直しを求める声が上がり、法務省では危険運転致死傷に関する要件を見直す法制審議会を2025年3月から実施。現在まで6回開催されている。

危険運転は「意図的に危険な状態で運転し人を死傷させた」とされ悪質性が高いため、懲役刑のみで刑期も大幅に重い。一方、過失運転は「不注意(過失)で人を死傷させた」罪で、懲役・禁錮のほか罰金刑もあり、刑罰が軽めになる。
審議会によると「殊更にタイヤを滑らせ又は浮かせることにより、その進行を制御することが困難な状態にさせて、自動車を走行させる行為」を対象に検討。つまりドリフトやスライド、ウイリーを行い、死傷事故を起こした場合、危険運転致死傷が適用されることを検討している。“自動車”にはもちろんクルマのほか、バイク(原付含む)も対象だ。
ご存じの通りドリフトは、ハンドルやアクセルを操作し、意図的にタイヤを横滑りさせるテクニック。クルマにはドリフトで魅せるD1グランプリなどの競技も存在する。バイクの場合、用語としてはドリフトより“スライド”の方が多用されがち。オンロードでは一部で進入スライドが使われるが、特にオフロードやモタードでのスライド走行はメジャーだ。
ウイリーは前輪を浮かせて後輪だけで走るテクニック。後輪を浮かせるジャックナイフも「殊更にタイヤを浮かせる」行為に該当するだろう。公道でのスライドやウイリーは現在「安全運転義務違反」などにあたるが、今後、事故を起こせば危険運転致死傷が適用される可能性がある。
サーキットやオフロードコースはともかく、公道でスライドしているバイクはほぼ目にしないが、可能性があるのは未舗装の公道においてオフ車などをスライドさせて死傷事故を起こしたケースが該当するだろうか。
一方で懸念されるのは、意図しないウイリーやスライド。審議会では、雪道でのスリップや、障害物を避けるために急ハンドルを切ってタイヤが横滑りした場合など、意図的でない走行まで処罰されないよう、悪質性の高い走行に処罰を限定するとしている。
40~50km/hオーバーでの事故も一律で危険運転致死傷に!?
速度違反に関する基準についても検討されており、9月29日に行われた審議会では、2つの案が提示された。最高速60km/h以下の道路では、40km/h超過または50km/h超過して死傷事故を起こした場合に危険運転を適用。つまり最高速60km/hの一般道では、100km/h超または110km/h超で適用されることになる。
最高速が60km/hを超える高速道路などでは、50km/h超過または60km/h超過を検討。例えば、最高速100km/hの高速道路では、150km/h超または160km/h超が対象となる。
しかし、審議会では反対意見も出ている。“最高速度をどれだけ超過したか”という一点の基準のみで判断することに問題点があり、“速度超過が起きる状況を考慮していない”というものだ。
例えば、追い越しや高速道路・自動車専用道路での合流、あるいはそのために車線変更を行う場合など、通常の運転の中でも様々な事情で一時的に加速が必要なケースはある。特に首都高速では多くの区間が最高速50~60km/hだが、分岐や合流が入り組んでおり、瞬間的に100km/h程度まで加速する状況はありえるという。また、悪質な煽り運転から逃げるために速度超過するケースも考えられる。



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