全国に25,000以上あると言われるバス路線。その中でも、県境を跨いで走る高速バス以外の一般路線バスの数は極端に少ない。そんな県境越えバスの実態がどうなっているか、様子を見に行くシリーズの第15弾目くらい。今回注目するのは桜東バス「江戸崎佐原線」だ!!
文・写真:中山修一
(茨城・千葉県境越えバスの写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■2番目に長い川が境界の県
茨城県と千葉県。隣り合わせの県ながら、端から端まで120kmほどある境界の殆どを、全長322kmを誇り日本で2番目に長い川の、利根川が隔てているのが特徴になっている。
この利根川には、高速道路と鉄道橋を除くと、茨城県と千葉県の間に合わせて16本の橋が架かっており、両県を行き来する人やモノの流れを支える重要な役割を担っている。
橋が架かっているなら両県の往来など、スーパーでたまに朝だけ売ってる激安セール品の卵10個パック手に入れるよりも簡単、というのはマイカーやレンタカーを使った時の話。
そこを公共交通機関・とりわけ路線バスで移動しようと考えたなら、実行可能な条件が極端に限られるのは、茨城県/千葉県も他の都府県と大して変わらないハズだ。
■茨城県〜千葉県の県境越えバス事情
茨城県〜千葉県を乗り換えなしで直通してくれる高速バス以外の路線バス……どれくらいあるかと数えてみれば、16本架かっている橋のうち、確認できた限り路線バスが通る橋は6本。
その中で、橋を渡ってくれるバス路線の数は7路線で、1本の橋につき通るバスは1路線しかないのが原則(1箇所だけ2路線)だ。
それぞれのバスの本数も決して多くはなく、比較的頻繁な都心寄りでも30分おき。一方で土日は朝8時に1本だけのような激ムズ路線も見られ、やはり路線バスを使っての茨城県〜千葉県の県境越えもまた“狭き門”であるのは一緒なようだ。
■電車空白地帯の県境越えバス
茨城県→千葉県を跨ぐ路線バスのうち、鹿島神宮〜銚子駅間を結ぶ関東鉄道の路線バスを、以前バスマガジンWebで紹介したことがある。
関東鉄道のバスは最も海寄りに掛かる「銚子大橋」を渡る路線であるが、今回は2番目に海寄りの県境越えバス路線。橋を基準にすると、銚子大橋から4つ奥・およそ38km先に架かる「水郷大橋」を通って両県を跨ぐ。
とどのつまり銚子大橋の次は38km離れないと、一般路線バスでは利根川を渡れないわけで、姿の見えない巨大な壁を川が築き上げているのを、まじまじと感じ取れる。
さて、今回該当するバスは、茨城県の桜東バスが運行している「江戸崎佐原線」。茨城県稲敷市にある江戸崎と、JR成田線の佐原駅との間およそ27kmの区間を結ぶ路線だ。
バス旅の出発点になる江戸崎は、霞ヶ浦の南側にニョロリと伸びた1本の入江を擁する静かな街。一度も鉄道が敷かれたことのない電車空白地帯に位置しており、同地で路線バスは公共交通機関の要だ。
■電車の駅みたいなバス停
江戸崎には、JR常磐線の土浦駅方面からも、JRバス関東の霞ヶ浦本線でアクセスできる。江戸崎バス停は道路と道路の間に挟まれる形で置かれていて、一方通行方式のバスの通り道・兼乗り場と、その隣に少し大きめな待合所が建っている、交通の要衝的な佇まいだ。
バス待合所を見ると、鉄道のローカル線の古い駅舎とよく似た貫禄のある作りをしていて、「江戸崎駅」のバス停名が掲げられている。レールはないけれど「駅」を名乗っているのが物珍しい。
江戸崎には、過去に鉄道を通す計画だけはあったらしい。ところが着工されず、代わりに当時の国鉄がバス=自動車線を走らせていた。江戸崎が、国鉄自動車霞ヶ浦本線の停車場所として開業したのは1954年2月1日。
国鉄バスの主要停車場所は、自動車線の“駅”の扱いであったため、バスでも○○駅と称していた。現在の江戸崎バス停には、元・国鉄バスの設備がそのまま使われているようで、江戸崎駅と書かれているのは自動車線時代の名残と思って良さそうだ。
ちなみに、ここを出入りしている各バス事業者での停留所名は、国鉄バスの流れを汲むJRバス関東も含めて、現在は「江戸崎」が正式な呼び方になっている。