沖縄本島内の公共の足を支える路線バス。乗り方がかなり独特なのが沖縄のバスの特色になっているが、使われているバスの車種に注目した場合にも、ほかの地域との違いが見られるだろうか。
文・写真:中山修一
(沖縄本島を走る路線バス車両の写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■沖縄本島を走る路線バスの最近の車両事情
2024年現在に沖縄本島で活躍中の路線バス車両には、どういった車種が見られるか。まとまった数のバスが集まってくる、大きなバスターミナルがある那覇や名護の周辺で軽くバスウォッチをしてみた。
沖縄のバスといえば、1970年代に製造された「730(ナナサンマル)」と呼ばれるビンテージ車がまだ2台ほど残っているのが有名であるが、物凄く特別な存在なので、今回それは置いておくとしよう。
車両のサイズは小型・中型・大型が一通り見られ、なかでも都市部では長さ10mクラスの大型路線車が主力になっている。
全体的には比較的新しめの車が目立つようで、首都圏で現在使われている路線バスと変わらない顔ぶれ、といった印象を持った。
車種に注目すると、現在のバス車両メーカー/ブランドの御三家である、いすゞ・日野・三菱ふそうの3社が揃っていて、メーカーのカタログに載っている現行のバス車両とほぼ同じ見た目をしたものの多くは、各バス事業者が2010年代の後半に新車で導入している。
バスの車体に、沖縄だけにしか見られないパーツや意匠が取り付けられてるような、外観上の特異さはあまりないようで、車両自体は至ってプレーンな仕様といったところか。
「外から見える」という条件なら、車両前面のオデコと側面に付いている標準の行先表示器のほかに、正面から見てフロントガラス右下に、主な経由地を記したサボが添えられているのがユニークで、魅力あふれる注目ポイントにもなる。
■ヨコハマから来ました……
もちろん現行タイプの車だけでなく、2000年代に作られた一世代前のバス車両も多数使われている。もはや一世代前でも既にバリアフリー対応車であり、首都圏でも同じ顔をした車が今も走っているので、デザインに極端な古さは感じない。
そういった車両のうち、実は同地で新車導入されたものは相当珍しいようで、他地域のバス事業者で役目を終えた中古車が殆どを占めるのが特徴。
現地で見かけたバス車両が辿ってきた経歴を掘り下げてみると、京急バス、川崎鶴見臨港バス、国際興業バス、東武バス、横浜市営バス、神奈中バス、東急バス等々、関東地方出身車が豊かなバラエティを形成していた。
車体こそ沖縄の各バス事業者のカラーに塗り直されているものの、パッと見ただけで、そのバスがどこから来たかが窺い知れるケースも少々。
分かりやすい例が元・横浜市営バス。ベイブリッジやマリンタワー柄のシートモケットがそのまま残っていて一目瞭然。横浜市にゆかりのある向きなら親近感がわくこと請け合いだ。
■全国に現れるあのバス会社の車がここにも!
車体の特殊な意匠によって出身地を隠しきれない車両も見逃せない。車体を正面から見てフロントガラスの右下に小判型の窓が付いている車(三菱ふそうエアロスター)がある。
主要4社のうち沖縄バスがまとまった数を導入しているが、その小窓=あのバス会社から来た車だと思って間違いない。毎度おなじみ神奈中バスだ。
神奈中バスは路線網が膨大なだけに大量の車両を導入するのと、20年経たないくらいの間、まだ使える段階で定期的な車両の入れ替えを行なっている。
それもあってか引退後も他のバス事業者に引き取られて再就職するケースが全国的に見られ、沖縄でも同じ要領で元・神奈中車が現役続行中というわけだ。
ちなみにこの小窓は、元々「運賃後払い」のような、乗客向けの利用案内を掲示するための設備で、沖縄バスの元・神奈中車では、これといって何かに使われている様子はなさそうだった。
特徴的な小窓のほか、最近の神奈中車では更新されて数が少なくなってきた印象ながら、やや明るい青緑のシートモケットもまた元・神奈中のアイデンティティを残している。
そんな沖縄バスで元・神奈中の三菱ふそうエアロスター群をチェックしてみると、2001年式が多い模様。
見た目は現行タイプの一つ前ながらも、車齢で言うなら20年以上経っており、もうすぐネオクラシックの領域に達する長いキャリアの持ち主だったりする。