車両自体はごく普通に見えるが、日の丸をはためかせながら走る、ちょっと変わった様子のバスをごく稀に見かける。どんな時に旗付きの出番が来るのだろうか。
文・写真:中山修一
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■16/365の特別なワンポイント
カレンダー通りに休める日に外へ出るか否かで、日の丸の旗(日章旗)を取り付けたバスを目撃する回数が大幅に変わってくる。旗付きのバスが走るのは休日と決まっているためだ。
休日にも種類があるのは周知の通り。バスでは「国民の祝日」と呼ばれる、法律で定められた特定の日に限り、日の丸の旗を掲揚するようになっている。土曜・日曜や祝日の振替休日は原則対象外だ。
最近の国民の祝日を見ると、振替休日を除いて年間16日。国が関わる単発の重要行事でもない限り、通常365日のうち16回しかチャンスが巡ってこないのを考えると、旗付きは結構レアだったりする。
■祝日と旗の奥深い関係
ではどうして祝日=日の丸の旗なのか……現在の国民の休日が法律で決まったのは1948(昭和23)年だが、旗と祝日の関係は少なくとも戦前〜明治時代まで遡る。
戦前戦中と戦後とで日本の祝日はだいぶ勝手が異なる。たとえば現代の場合、国民の休日にあたるのは祝日しかないが、戦前戦中は祝日と祭日で区別されていた。1924(大正13)年時点で祝祭日合わせて年10日ほどだ。
また、明治・大正・昭和初期にかけては、祝祭日を神聖視する傾向が強かったようで、その日が休みである意義に敬意を表するため、自宅なら玄関先などに、国旗である日の丸の旗を立てて応えるという習慣があった。
その昔は、祝祭日のことを「旗日」と呼ぶほどで、それだけ祝祭日での旗の掲揚が広く浸透していたわけだ。今日でも祝日に国旗を掲げるのは、その日を祝うシンボルとするためのほか、祝祭日がより儀式的なものだった時代の名残とも言える。
■全国規模では超珍しい!?
話の主軸をバスに戻そう。ここでは一般路線バスに絞って見ていくとして、祝日ならどのバス事業者でも旗を取り付けて運行しているのかと思いきや、全国的に見るとそうでもないようだ。
国が定めた休日ということで、より国との接点が近い公営バス事業者のほうが実施度が高そうに感じて確認してみると、むしろ旗付きのほうが少ない印象を受けた。
民営のバス事業者では、祝日に旗付きで運行しているところも見られるが、会社ごとに基準はバラバラだ。公営/民営含め、旗の掲揚を積極的に行う首都圏の事業者としては、都営バス、横浜市営バス、神奈中バスなどが挙げられる。
ちなみに横浜市営バスでは、コロナウィルスが猛威をふるっていた時期に旗の掲揚を取り止めたものの、要望が多数寄せられたようで、その後掲揚を再開している。
旗を取り付ける位置もまた、趣味的に興味深い観察ポイントとなっている。最もお祝い感を演出するスタイルが、旗付きのポールを2本クロスさせて車体正面に掲げたもの(主に都営バス)だ。
ほかにも正面左右どちらかのヘッドライトの隣付近(横浜市営バス・神奈中バスほか)、正面上寄り行先表示器の端あたり(東急バスほか)等々、事業者ごとに千差万別で楽しい。