■陽炎のように消えた
首都圏を離れ、後ろ乗り前降りの運賃後払い方式のバス路線を利用すると、かなりの高確率で前後扉車がやってくる時代もあった。
前後扉車の製造は1960年代始め頃を皮切りに、1990年代後半まで続けられていた。ところが、以降パッタリ途絶えてしまった。これはバリアフリー化が重視されるようになった時期と重なる。
前後扉車は、車内の床面までステップを2段上がる「ツーステップ車」が大半を占めていた。バリアフリー化を行うとなれば、乗り降りが大変なツーステップ構造は改善すべき課題に変わる。
前後扉車でも前扉部分を低床化する余地は残っていそうだが、エンジンを後ろに積んでいる日本の路線バス車両では、エンジンスペースを作る都合から後部の床面を高くする必要があり、後ろの扉まで低い位置に置くのは困難を極める。
地域によっては超メジャーな存在へと上り詰めた前後扉車がなぜ消えていったのか……構造上の問題という、避けようのない事情があったわけだ。
ただし、ノンステップ仕様の前後扉車が作られた実例も一応ある。一部事業者で使用されたが、車両としては試作品レベル止まりで普及には至らなかった。
■前後扉車の行方やいかに?
1990年代が製造の最末期にあたる前後扉車。その後も各地で採用した事業者で使われ続けていたが、2010年代の後半くらいから引退が目立つようになった。
さすがにもう“絶滅”したかと思いきや、数が相当少ないのは確かであるものの、2023年現在に一般路線バスで使われている前後扉車もなくはない。
一例としては、静岡県のしずてつジャストラインが運行している、主に郊外路線で前後扉車が使われることがあるようだ。
いずれにせよ、車齢を考えればビンテージの領域に達して久しい。前後扉車が普通に走っている光景を目にできる、残された時間はあとわずか!?
【画像ギャラリー】1990年代に作られたバラエティ豊かな前後扉車(6枚)画像ギャラリー