旅の記念や趣味の記録などでバスの写真を撮り、できた写真を見ると行先表示の部分だけ写っていないことが結構ある。それにはこんなカラクリが暗躍していた!?
文・写真:中山修一
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■デジタル時代ならではの悩み
「行先表示の部分だけ写っていない」とは、バス車両の前後と横に取り付けてある、いわゆる行先表示器に表示されているはずの文字情報が、写真では所々が切れていたり、全部消えていたりして、内容を読み取るのが困難あるいは不可能になっている状態を指す。
この現象、フィルムを使った旧世代のアナログ巻き上げ式方向幕では起こらないため、全く気にしなくて良い。
近年の主流であるLED方式の行先表示器でのみ発生する、デジタル時代になった以降に生まれた悩みの一つと言える。
なぜLEDに限っての話なのか……バスのLED行先表示器の場合、表示領域の基盤に丸型の小さなLEDを縦横に数千個並べ、点灯/非点灯させるLEDを個々に制御して、文字や記号などを表現する仕組みになっている。
点灯中のLEDは、実は常に光り続けているのではなく、肉眼では分からないくらいの速さで点滅を繰り返している。
これをカメラで撮影すると、LEDが消える(暗くなる)タイミングを捉えてしまうことがあり、結果、表示の一部が切れる、または全部が消えているように見えるわけだ。
バスの行先表示器に限らず、電車の行先表示器や町に置かれた案内表示板など、仕組みが大体同じであれば、どんなLED表示器でも同様の現象が起こる。
■解消のカギを握るシャッター速度
どうにか表示が切れないように写真を撮れないものか。対抗策を挙げるとすれば、カメラのシャッター速度に注目してみるのが手っ取り早い。LED表示が切れやすくなるのは、撮影時のシャッター速度が速めだった時だ。
シャッター速度が1/500秒や1/1000秒のような高速になると、ほぼ間違いなく表示は切れると思って良く、割り切って諦めるほうが気楽だ。
反対にシャッター速度を遅くすれば、文字として読み取れるレベルくらいまで、LED表示を比較的キレイに撮影できるチャンスが生まれる。
どれくらい遅くすれば効果が現れるのか。バス用のLED表示器は現在のところ、どれもシャッター速度に対して非常にデリケートだ。
表示器のメーカーやモデルによって差異があり、「これ」という基準を決めるのは超難しいのだが、大体1/125秒くらいのシャッター速度であれば、表示の全体がそれなりに写ってくれる。
あくまでザックリとしたイメージながら、1/160秒でも読み取れる範囲、1/200秒を超えると怪しくなりはじめ、1/320秒まで行くと表示は軒並み切れて、読めない領域に達する。
シャッター速度が常に1/125秒を下回るようにすれば問題解消とも取れるが、それを行うにはまず、カメラに「シャッター速度優先モード」や「マニュアルモード」が付いているのが前提となる。
無事調整できたとして、それで万事解決かと思いきや、今度は撮影技術的なお約束が付いてくる。
走行中のバス車両を遅めのシャッター速度で撮ろうとした場合、被写体が流れたように写る「被写体ブレ」の問題が急浮上するほか、停車中でもカメラの「手ブレ」が起こりやすくなる。
よく晴れた昼間のような周囲が明るい環境下での低速シャッター撮影となると、露出オーバーの可能性(絞り値やISO感度の調整)も計算に入れておく必要が出てくる。
こちらを叩けばあちらが飛び出る。それが写真の難しさであり面白さでもあるので、うまくやるには場数を踏むしかないのだが……。
シャッター速度等を調整できない、全自動オンリーのカメラやスマートフォンだと、使用者側からはどうにもならないので、LED表示がキレイに撮れるのは、夜間のような自動的にシャッター速度が遅くなる環境に限られる。