奈良県の大和八木〜和歌山県の新宮を結ぶ、奈良交通「八木新宮線」。全長169.8kmの日本一長い距離を走るだけに、平均的な路線バスではあまりお目にかかれない、風変わりな要素が揃っている。
文・写真:中山修一
(詳細写真ギャラリーを含む写真付き記事はバスマガジンWEBまたはベストカーWEBでご覧ください)
■ちょっと豪華なバス車両
奈良交通「八木新宮線」も、ジャンル的にはごく普通の、高速道路を通らない一般路線バスになる。車両も、よくある見た目をした箱型の大型路線バスが使われる。
とはいえ全区間乗り通すと6時間以上かかるわけで、その点は車内設備のグレードを上げて、ノーマルよりも快適な空間を確保している。
車内は背もたれの高いシートが中心に並び、観光バスや高速バスではおなじみの網ポケットとドリンクホルダー、ヘッドレストのカバーまで付いていて、ちょっと豪華だ。
■こんなお客は手を挙げて!?
始発の停留所から乗車すると、他のバスではあまり経験しないプレイベントがある。運転手さんによって対応が変わるかもしれないが、大和八木から乗った場合、「新宮まで行かれる方は手を挙げて」と聞かれる。
後述するが、これにはちゃんと理由があり、挙手して損するようなことはないので、気軽に参加しておくと楽しい。ちなみに乗車した当日に手を挙げたのは5名だった。
■乗りバスついでにプチ観光
長丁場のバス旅になるため、休憩を兼ねた停車が3回組み込まれている。大和八木駅起点で約25km先の「五條バスセンター」、約70km先の「上野地」、約100km先の「十津川温泉」が休憩地点だ。
どの休憩地点にも、停留所のすぐそばにトイレがある。五條バスセンターと十津川温泉では、それぞれ10分くらい停まるが、2番目の上野地だけ約20分と長めの停車時間が取られている。
上野地には「谷瀬の吊り橋」と呼ばれる人道橋が架かっている。山深い同地の谷間に流れる、紀伊半島で最も大きい河川の十津川(熊野川)を渡るのに難儀したことから、地元の人たちがお金を出し合い、1954年に作られたものだ。
長さ297.7m、高さ54mで、もともと生活用に作られた吊り橋では日本一長いそうだ。現在は観光スポットにもなっており、八木新宮線沿線でも特に目立つランドマークで、スルーしてしまうのは少々惜しい。
問題は20分で吊り橋を見に行けるか否か……これがトイレを済ませて橋まで歩いて向かい、端から端まで渡って戻り、途中のお土産屋さんで名物のコンニャクを買い食いするくらいまで何とかなる。
乗りバスついでにプチ観光が楽しめる、気を利かせた時間設定というわけだ。