現在の長距離バスといえば大抵は高速バスのことを指す。では、高速道路ができ始めのころ、もしくは開通前に運行していたバスのうち、何kmくらいの距離を走るものが最長クラスだったのだろうか。
文:中山修一
写真・図版:日本国有鉄道自動車局「国鉄自動車の概況」より引用
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■高速道路が幕を開けた1960年代
日本で初めて開業した高速道路は、1964年の名神高速だ。ほか、主なところで首都高都心環状線が1967年、東名道は1969年に全線が開通した。
1960年代は高速道路の黎明期といえる。その高速道路上にバスを走らせて速達輸送を行う計画自体は、開業前から粛々と進められていたらしい。
最も初期の高速バスは、国鉄バスをはじめ各民営バス事業者が運行した、名古屋〜京都・大阪・神戸間の「名神高速線」で、名古屋〜神戸およそ215kmの距離を高速道路経由で結んでいた。
今日も象徴的な都市間バスの一つである、東名道を通り東京〜名古屋間およそ355kmを結ぶバス路線「東名高速線」の開業は、1969年6月のことであった。
■当時の時刻表からバス事情を探ってみる
では、東名高速線の開業より数年遡る、名神高速線の運行開始前後・1960年代前半に、一般道を走る長距離バスの類は運行していたのだろうか。
ここでは確実な情報が記録されている、当時の「国鉄監修時刻表」を開いて軽くリサーチすることにして、まず選んだのは1961年10月号だ。
後ろの方までページを進めると、バスや船、飛行機の時刻表が現れるのは現在とほぼ同じ。しかし1961年当時の誌面には、もちろん高速バスはまだないが、長距離バスだけをまとめたページもない。
各バス路線は地域ごとに、船舶や私鉄などと一緒に掲載されている。この中から走る距離の長そうなものを探してみると、一例に以下のようなバスが見つかった。
【東北】
●青森〜休屋(十和田湖畔) 約80km 4時間30分
【北陸・近畿】
●京都〜小浜 約100km 4時間40分
【四国】
●松山〜高知 約120km 5時間53分
【中国・九州】
●広島〜益田 約150km 5時間56分
●山口〜博多 約165km 4時間55分
●宮崎〜湯前 約90km 5時間12分
上記はどれも国鉄バスが運行していた路線だ。当時の長距離バスといえば、どうやら100km台後半が中心だったと思われる。やはり一般道だけを走行するとあって、距離の割に所要時間が半端ない。
また、1961年の時点で東京発着の長距離バス路線は(実在したかも知れないが)特に掲載されておらず、東京からの遠出なら、鉄道に頼るのがお約束だったらしい。
この時代、まだ東海道新幹線も開業していないため、急行・特急含め在来線列車のバラエティは相当多い。東京発の最も遠くまで直通する普通列車は姫路行き(所要時間15時間56分)だ。
ちなみに東北エリアの青森〜休屋間を走る路線(十和田北線)は、JRバス東北が「みずうみ号」として現在も季節運行している。所要時間は3時間前後と、約60年前に比べ早くなった。
■新幹線開業直後にどう変わった?
続いて「国鉄監修時刻表」1964年10月号に注目してみよう。東海道新幹線開業直後であり、日本初の高速バスである名神高速線も既に運行を始めている。
ただしこの時刻表に名神高速線はまだ載っていない。国鉄バスの各路線と時刻は1961年10月号と同じ欄で扱っている。
大きな違いは、民営事業者が運行する長距離バスの専用ページが追加されている点だ。高速バスは1本もなく、誌面での総称は「長距離急行バス」となっている。主な路線の内訳は……
●東北急行バス 東京〜仙台〜松島 約370km 7時間30分
●常磐急行バス 新橋〜日立 約150km 4時間27分
●東武鉄道 東京〜猿ヶ京 約170km 5時間30分
●箱根登山鉄道 東京〜横浜〜江ノ島〜箱根町 約100km 4時間30分
上記のうち、東北急行バスの仙台方面行きは1962年に運行を始めた路線だ。走行距離300km超……高速バス開花前の長距離バスでは、これがホンモノの最長かもしれない。
時刻表掲載のデータを踏まえると、高速道路がほとんどなかった時代も、今ほどの超ロングドライブはしないにせよ、そこそこ長い距離(時間)を走るバスは各地にあったようだ。
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