鉄道事業者がバス事業を運営!! 省営バス(国鉄バス)の誕生と関東省営バス(JRバス関東)発祥の地を訪ねる

鉄道事業者がバス事業を運営!! 省営バス(国鉄バス)の誕生と関東省営バス(JRバス関東)発祥の地を訪ねる

 かつての鉄道省がバス事業を行うきっかけとなったのは、1921年に鉄道敷設法が大幅に改正され、全国に数多くの鉄道建設計画が立てられたことによる。

 しかし、それらの予定線は輸送量が少ない地区にあり、建設費用も多額になると予想されたことから、鉄道の補助・代行機関として自動車運送事業を行うべきという意見が出され、全国78路線について実地調査がなされた。

 その結果、愛知県の岡崎駅と多治見駅、瀬戸記念橋駅と高蔵寺駅間の岡多線の開設が決定された。ここでは、省営バスの歴史と関東省営バスの足跡を辿っていく。

(記事の内容は、2020年5月現在のものです)
執筆・写真(特記以外)/諸井 泉
取材協力/ジェイアールバス関東(株)
参考文献/南房州線開業50周年記念写真集(館山自動車営業所発行)
※2020年5月発売《バスマガジンvol.101》『あのころのバスに会いに行く』より

■全国で4番目に開業! 館山〜千倉間で開始された関東省営バス

愛知県名古屋市のリニア・鉄道館に展示されている省営バス第一号車
愛知県名古屋市のリニア・鉄道館に展示されている省営バス第一号車

 全国初の省営バス(国鉄バス)は1930年に誕生した。その後、1931年に山口県の三山線、1932年に三重県と滋賀県にまたがる亀三線が相次いで開業。関東では1933年に千葉県の安房北条(現館山)〜千倉間に、全国4番目の路線として開業した。

 これが関東地区における初の開業となり、管轄の安房館山自動車所は関東省営バス発祥の地となった。関東省営バスとはどんな路線であったか、その足跡をたどった。

 関東省営バス発祥の地を目指すべく、JR内房線館山駅に降り立つ。改札口を出て左手の階段を下りて線路沿いを歩いていくと、JRバス関東の敷地内に石碑が置かれていた。この石碑は2013年に省営バス80周年を記念して設置された記念碑である。

 国鉄バスがまだ鉄道省直営のバス事業「省営バス」と呼ばれていた時代に、ここ安房館山で運行を始めたのである。記念碑には、省営バス時代のバスの写真と現在の高速バスの写真が並べで組み込まれ、80年という歳月を感じさせてくれる。

 館山支店の隣には、昭和初期から昭和40年代頃までのバスの写真で綴った、館山自動車営業所の歴史を紹介した展示コーナーがあり、往時を偲ばせる。

 開業当時の路線を調べてみると、現在のJRバス関東・南房州本線の一部と、館山日東バスの白浜千倉館山線が当時の関東省営バス第1号路線だったようで、その中核駅となっていた安房白浜駅へと向かった。

 安房白浜駅の待合室に入り、つばめの窓口の脇でラックに置かれたパンフレットを眺めていると、窓口のガラス戸が開いて「どこへ行かれますか?」と窓口の女性が声をかけてくれた。

 これ幸いとあれこれ質問すると、女性は困惑した様子を見せたものの、「私より会社の歴史に詳しいOBがいますので連絡してみますね」と、親切にもあちこちに電話連絡してくださっていた。

■国鉄バスOBのお2人に伺った往時のバス事情

国鉄バスOBのおひとりである小谷勝蔵さんが所有する、国鉄バス館山支店発行の記念乗車券の数々
国鉄バスOBのおひとりである小谷勝蔵さんが所有する、国鉄バス館山支店発行の記念乗車券の数々

 やがて「連絡が取れましたのでここでお待ちください」と言われ待合室で待っていると、驚いたことに20分も経たないうちにお2人の男性が資料や写真集を持って駆けつけてくれたのである。

 早速近くのコミュニティーセンターのロビーに場所を移し、話を伺うことにした。お2人は館山支店で働いてこられたOBの小谷勝蔵さん(以下小谷さん)と鈴木政和(以下鈴木さん)であった。小谷さんは国鉄に入社した当時は、新宿の貨物自動車営業所に配属され、トラックの助手をしていたという。

 冒頭で述べた省営バス岡多線は、開業当初から旅客輸送とともに手荷物や小荷物、郵便物や貨物の運送を行っていた。

 これは省営バス創業時に提唱された「総合輸送」という経営理念によるもので、「バスは旅客を輸送するのみにあらず、手荷物、小荷物、郵便物、及び貨物の5客体を運ぶ輸送機関である」という方針に基づいている。

 このように省営バスは鉄道貨物の末端輸送や、近距離輸送をも担っていたのである。岡多線以降に開業した路線でもこの「総合輸送」という経営理念が守られてきたが、当時の貨物輸送はトラックのみならず、バスの車体後部に貨物を積めるように改造した、旅客・貨物合造車も運行していたという。

 この旅客・貨物合造車は新聞輸送にも使われ、深夜に荷電代行輸送としても運用された。館山から回送して両国へ向かい、国鉄両国自動車営業所で新聞を積み込むと、千葉県各所で新聞を降ろしながら館山に戻ってきたという。

 省営バスの貨物輸送の実像を探ることで、省営バスが担ってきた旅客輸送に加えた大きな役割を知ることができたが、小谷さんによると国鉄バス時代のトラック助手は、「車掌」という鉄道員と同じ赤い腕章を腕に巻いていたと懐かしそうに当時を振り返る。

 この「車掌」の赤い腕章は鉄道員と同じ国鉄職員の一員としての証であり、誇りもあった。国鉄バスのつばめマークを背負って働いてきたという自負と、国営の公共交通の一翼を担ってきたという誇りは、退職した今でもしっかり胸に刻まれていたことを感じられた。

【画像ギャラリー】鉄道に代わって公共交通の一翼を担う!! 鉄道員同様の誇りを抱いて走り続けた省営バス〜国鉄バスの歴史(10枚)画像ギャラリー

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