最南端のバス停を目指す
乗りバス目的なら最初は全区間乗ってみて様子を確認したいものだ。乗りバス当日は、宿泊先から徒歩1分の「中野」バス停をスタート地点に設定、まず7:53発の豊原行きをつかまえることにした。
どんな場所でも時間通りにバスがやってくるのは日本が誇る芸当だ。やってきたのは、明るいグリーン基調の西表島交通カラーに塗られた縦目4灯ライトのいすゞエルガミオ。路線車は4台が運用中とのこと。
バス車両は他の地域と同等の、2扉の中型路線車である。ただし西表島交通では後ろの扉が締切扱いとなっていて、前乗り・前降り方式が採られている。
車内に運賃表示器があり稼働しているが、運賃は前払い。乗車して運転手さんに降りたい停留所名を告げて運賃を支払う。
フリータイプの1日/3日乗車券も用意されている。全区間通しで乗ると普通運賃が1,470円に対して1日乗車券は1,050円なので、乗りバスなら選ばない手はない。
ちょっと面白いのが、フリー乗車券で利用する際も降車予定の場所を申告するシステムになっていることだ。
中野バス停を出発し途中で2名ほど利用者を乗せて、バスは沖縄県道215号線を南下していく。西表島の幹線道路は215号線1本のみで、この道路を背骨にして細い道が枝分かれしている。従ってバスの経路のほとんどが215号線をトレースする。
島内には信号機が2箇所しかない。うち1箇所は教育用として小学校の前に作られたものだ。もともと交通量が少ないため、路線バスの走りも高速バスか?と思ってしまうほどスムーズだ。
約50分ほど乗ると「由布水牛車乗場」バス停に到着、1名の旅行者が下車した。ここで数分間停車になったが、運転手さんは特に何も言わず自ら率先して降りて行った。トイレ休憩にちょうど良いようだ。
このバス停近くから、由布島という小島まで水牛車に乗って渡ることもできる。この水牛車、お金を払えば誰でも利用できる乗り物という定義の上ではバスの一種に数えられる。
由布水牛車乗場を出発すると20分ほどで大原港のバス停に着き、もう1名がこちらで下車。石垣港からのフェリーの到着時刻ではなかったようで、ここから乗った人はいなかった。数分停車したのちに出発。
大原港から約5分、9:10に終点の豊原に到着した。豊原は日本で最南端に置かれているバスの停留所である。豊原行きバスの車線上には何もなく、道の反対側に停留所の標識と待合スペースが建てられている。標識には確かに「日本最南端のバス停」とある。
なかなかアッサリした場所にあるバス停というイメージを持ったが、豊原の場合はバス停自体が観光スポットである。
今度は“条件付き”の最西端バス停へ
折り返しの便まで約15分、短いような長いような時間で出来ることと言えばバス停周辺の観察くらいだろうか。9:25発を見送ると次は13:50発である。
セオリー通り9:25発に乗車し、今度は北寄りの終点である白浜を目指す。ここで初めて端から端まで、正真正銘1時間40分フルな乗りバス旅となる。
折り返しの便では大原港で10名ほど乗車があり、ほとんどが由布水牛車乗場で下車していった。ここが西表島交通線の主要区間と言えそうだ。
路線バスに2時間近く乗るのは絶対値ではそこそこ長いが、左を見れば小高い山々やマングローブとジャングルへの入口、右へ目をやればオキナワブルーに輝く海と、車窓からの景色には不自由しない。イリオモテヤマネコが描かれた動物注意の交通標識も見逃せない。
あまり時間を感じさせないまま、出発点の中野バス停を通過。ここから先は高低差がやや激しくなる。中野から約11km、11:05に北寄り終点の白浜に到着した。
この白浜バス停の標識には「日本最西端のバス停」の説明が添えられている。最西端のバス停は与那国島にあるので何かの間違いではと勘繰ってしまうが「有償のバス」という条件をつけるなら、白浜バス停が日本最西端になる。
この時はここで終了ではなく中野まで戻らないといけないため、また折り返し豊原行きの便を待つ。今度は12:15発と少し時間が開く。周辺を軽く散策するには丁度良い。
島内さらに西寄りの船浮港へ向かう白浜港フェリー乗場が白浜バス停近くにあり、待合所もバスとフェリー兼用になっている。待合所の中には、かつて島内に炭鉱があったことを紹介するパネルが展示されていた。建物の裏に回るとヤギが繋がれマッタリしていた。
また、西表島竹富町には東経123度45分6.789秒の子午線が通っているそうで、それを記念したモニュメントが白浜港の近くに建てられている。
12:15発の折り返し便に乗車、23分くらいでスタート地点の中野バス停に着いた。昭和の時代に『シティコネクション』というゲームがあったが、あの感覚で道路の左右車線をそれぞれ塗りつぶすように一周してくる形となった。
本数が少ないため2便以上利用する場合ちょっと工夫がいる印象ながら、ダイヤ的に極端な難しさはなく、車窓からの眺めは良好で、時間的な乗りごたえも抜群。安価で観光バスみたいに楽しめる魅力も含め、西表島交通は乗りバス目的に十分すぎるほど使える路線バスであった。
ちなみに、地元の方何名かに路線バスについて、それとなく聞いてみたところ、「あ〜、走ってますね」くらいのリアクションをいただいた。
マイカーが生活の道具に組み込まれている場所ゆえ、地元的にはそういう立ち位置に落ち着いているのかも……。
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