■軽やかで意のままの走りを楽しめる
車名から分かるように、デビュー時のエンジンは2Lの排気量だった。
ホンダは後輪駆動のS2000のために縦置きレイアウトのF20C型直列4気筒DOHC・VTECを設計した。F20C型エンジンは、高性能を追求するだけでなく(にわかに信じられないが、当時としては)環境性能も考えた新世代のスポーツユニットで、コンパクト設計も特徴のひとつとなっている。
バルブ挟み角を狭角化し、カムシャフト駆動用ギアも小径化してシリンダーヘッドをコンパクト化した。動弁機構は信頼性の高いチェーン/ギア駆動だ。
時代の最先端を行く技術も積極的に盛り込んでいる。
パーツの重量軽減や低フリクション化に力を入れ、アルミ鍛造ピストンや鍛造コンロッドには浸炭処理を施した。アルミ製のブロックはラダーフレーム構造だ。高回転を苦にしないオーバースクエア設計とし、排気量は1997cc、圧縮比はレーシングエンジン並みの11.7としている。
驚かされるのは、平成12年排ガス規制をクリアしながらリッター当たり出力125psオーバーを達成したことだ。最高出力は250ps/8300rpm、最大トルクも22.2kg-m/7500rpmと、ターボエンジン並みにパワフルだった。
トランスミッションは、専用開発したショートストローク、ダイレクトチェンジ方式のぜいたくな6速MTだけの設定だ。その気になれば9000回転まで気持ちよく回り、6500回転を超えてからは加速に弾みがつく。
ちなみに2005年11月に登場した最終モデルは、エンジンを2156ccのF22C型DOHC・VTECに換装し、実用域のトルクを太らせている。最高出力は242ps/7800rpmに引き下げられたが、最大トルクは逆に22.5kg-m/6500〜7500rpmに増強された。
デビュー時はファンを失望させたが、今の眼で見ると高回転のキレは鋭いと思うし、トルクも豊かだから持てるパワーとトルクを引き出しやすい。
エンジンはフロントミッドシップに搭載され、ワンピースのプロペラシャフトと大径のドライブシャフトを介して動力を後輪に伝える。サスペンションは、インホイールタイプの4輪ダブルウイッシュボーンだ。デファレンシャルにトルセンLSDを採用し、前後重量配分は50:50だからドライバーが操っている感覚が強い。
2000年7月に電動パワーステアリングのステアリングギアを可変式のVGSとしたタイプVは、さらにクイックな身のこなしだ。軽やかにクルマが向きを変え、意のままの走りを楽しめる。
■20世紀最後の最高傑作である不朽の名車S2000
ホンダS2000の初期モデルは、ドライバーを選ぶほどエンジンはパンチがあるし、ハンドリングも荒々しかった。生半可な腕ではクルマに遊ばれてしまう。
エンジンはフレキシブルじゃないし、乗り心地もハードだ。本来は優雅に流すオープンカーのはずだが、このS2000はゆっくり走ることを許さなかった。だからデートカーには向かなかった。タイプRと名付けてもいいくらいスパルタンな乗り味だったのだ。
だが、マイナーチェンジのたびにサスペンションやスタビライザーなどのセッティングを見直し、意のままに操れるクルマへと成長している。快適性も大きく向上した。
最新のシビックタイプRも過激だ。が、ベースとなっているのはファミリーカーである。ホンダS2000は、専用ボディ、専用メカニズムのスペシャルモデルだ。
駆動方式はFFと4WDがあふれかえっている時代に後輪駆動のFRで登場した。しかも専用に開発したDOHC・VTECエンジンに6速MTだけの設定と、潔い。初代NSXや初代インサイトと同じように、開発者のこだわりがギッシリと詰まった珠玉の逸品なのである。
ホンダといえども、これから先はS2000のような内燃機関のピュアスポーツを生み出すことは難しいだろう。20世紀の最後に、奇跡から生まれた最高傑作であり、不朽の名車がS2000だ。これから先、今まで以上に評価が高まってくるだろう。
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