いま思えば、1990年代末から2000年代前半にかけての日本自動車界は奇跡のような時代だった。世界最高峰の性能を持つスポーツカーが、比較的安価で手に入った。「脱炭素化社会」へ全力で向かっている現代からは考えられないほど、各メーカーの開発資源がスポーツカーに投じられていた。
おそらくもう、こういうクルマが市販されることはない。それは時代の流れなので仕方ないにしても、懐かしむことはできるし、中古車店で探すこともできる。
そんな、日本自動車界における奇跡の一台が、ホンダS2000。発売の経緯とこのモデルが辿った足跡をつぶさに知る自動車ジャーナリストが当時の「奇跡」を紹介します。
文/片岡英明 写真/ベストカー編集部、HONDA
■ホンダF20C型直列4気筒DOHCも傑作
1998年、ホンダは創立50周年の節目を迎えた。これを記念して企画され、1999年春に発売されたフルオープンのピュアスポーツカーがホンダS2000だ。
★激安200万円台も続々登場!! ホンダS2000特選中古車情報はこちら
1998年10月にツインリンクもてぎで開催された「ありがとうフェスタinもてぎ」で鮮烈なデビューを飾り、半年後に発売された。
これほど刺激的なオープンカーは、21世紀になって20年たつ今でも存在しない。S2000に「タイプR」の設定はなかったが、当時「エンジン屋」を自認していたホンダらしい「名機」を積み、操る楽しさも格別だった。
プロジェクトリーダーを務めたのは初代NSXを指揮し、スポーツカーを知り尽くした上原繁さんである。1995年から開発が始まり、早い時期にパッケージングが決まった。選んだのは後輪駆動のFRレイアウトだ。
そしてフルオープンとしたが、妥協を許さないピュアスポーツを目指している。ホンダにとってはS800以来のFRオープンスポーツカーで、パワーユニットやボディ設計には当時の最新テクノロジーをふんだんに盛り込んだ。
■躍動感あふれるシルエットに絶妙なボディサイズ!
フレーム構造は、メインフレームの中央に閉断面のフロアトンネルを配し、これをX字形状に連接する三又分担構造とした。このフレームに前後のサイドメンバーと大断面のサイドシルを組み合わせたハイXボーンフレーム構造は、サーキット走行に耐えられるほど強靭だ。
同じくらいの車重のクローズドボディと変わらない剛性を実現している。また、フルオープンだが、北米に輸出するためクラス最高レベルの衝突安全性能を実現していた。
エクステリアデザインもすばらしかった。
躍動感あふれるシルエット。オープンでもカッコいいし、ソフトトップを被せたときのまとまりもいい。ホンダらしいグリルレスの顔つきとシンプルなリアビューも好ましいと感じる。
また、ボディのサイズ感も絶妙だ。街乗りでもサーキットランでも大きさを持て余さない。軽量化のためにボンネットとトランクはアルミ材をおごった。インテリアも華美を抑えた機能的なデザインとしている。ドライバーの前にコンパクトなメータークラスターを据え、走りの世界へと誘う。だが、パッセンジャー側はまったく色気がない。
コメント
コメントの使い方