■ETC2.0のメリットはユーザーではなく国交省?
とまあ、一般利用者のメリットは非常に小さいETC2.0だが、そのわりに車載器の価格は、通常のETC車載器に比べると1万円ほど高い。この約1万円のモトが取れるのは、圏央道を頻繁に利用するユーザーにかぎられる。
一方、国交省側にはメリットがある。それは、ETC2.0車載器搭載車から、プライバシー対策がなされたうえで「走行履歴」や「挙動履歴」を取得できることだ。
国交省によれば、「車両が路側機の下を通過する際に、これらの情報をプローブ情報として収集し、道路交通行政に幅広く活用しています」とのことである。
メリットといっても、これで国交省にお金が入るわけではないが、データを得られれば、それを使って新たな仕事(=縄張り)を獲得できる。官庁は利益ではなく、縄張りの拡大をひたすら追求するものなのだ。
■メリットは少ないはずなのに、装着率が高い理由は!?
このように、利用者にメリットが小さいはずのETC2.0だが、利用率は順調に上がっている。2021年9月の時点で、ETC利用率は93.5%。うちETC2.0が占める割合は、27.4%に達している。
いったいなぜなのか?
その背景には、一般ユーザーがあまり知らない事情がある。
実は、ETC2.0を利用しているのは、その多くが中型車以上のトラックだ。ETC2.0の利用割合を見ると、普通車以下は17.6%に過ぎないが、中型車以上は63.4%に達している。
理由は、ETCコーポレートカードによる大口・多頻度利用の緑ナンバー車(事業用)の場合、ETC2.0で利用すると、割引率が10%上乗せされるという点にある。
具体的には、1台ごとの1カ月の利用額が、5000~1万円までの部分は10%割引が20%割引に。1万~3万円までの部分は20%割引が30%割引に。3万円を超える部分は、30%割引が40%割引になる。
■トラックばかり普及が進むのにはワケがあった!
さらに現在は、「自動車運送事業者の労働生産性向上等のための臨時措置」として、国交省が年間80億円ほどの予算を付け、最大割引率を50%に引き上げている。
ETCコーポレートカードとはいったい何かというと、かつての「別納プレート」のETC版だ。「NEXCO3社が、あらかじめ定める要件を満たされるお客さまに貸与する」とされるETCカードのことで、運送会社や、ETCコーポレートカード協同組合(中小企業の互助組合)などを対象に発行される。車種は中型車以上にかぎらないが、実際にはトラックが多くを占めている。
高速道路を頻繁に利用するトラックにとって、割引率の10%上乗せは非常に大きい。車載器の1万円程度の価格差などすぐにモトが取れるし、利用頻度によっては、わざわざ通常のETCから2.0に付け替える価値も充分ある。
ETC2.0のセットアップ数の推移を見ると、2016年のサービス開始直後から、中型車以上で急増。しばらくは全体の約半数が中型車以上だった。つまりETC2.0は、割引率の割増というアメによって、トラックに集中して普及が進んだのだ。
■ETCコーポレートカードは個人申し込みも可能! しかし……
このETCコーポレートカード、実は個人でも申し込むことができる。
例えば、自分で法人を持っていたり、個人事業主であったりすれば、物流とは無関係の事業内容でも、ETCコーポレートカード協同組合に加入できる。そこを通じてETCコーポレートカードを発行してもらえば、最大30%(現在は40%に上乗せ)の大口・多頻度割引をゲットできる。ただし、NEXCOの利用額が月に3万円以上であることが加入の条件になる。
事業届を出していない純粋な個人の場合は、NEXCOに直接申し込んで、4カ月分の保証金(最低10万円)を預ける必要があるなどハードルが高くなるし、こちらも高速道路のヘビーユーザーでないと、加入の意味はない。
また、ETC2.0利用による割引率の10%上乗せは、緑ナンバーに限定されているので、個人タクシーでもないかぎり適用されない。
微妙に納得がいかない方もいらっしゃるだろうが、基本的には大口・多頻度で高速道路を使う緑ナンバー車への割引の拡大を餌に、国交省はETC2.0の普及と、交通プローブ情報を手に入れたという構図である。
緑ナンバー車への割引拡充は、物流を通じて全国民に薄く広くメリットがあるので、一概に不公平とも言えない。
いずれにせよ、一般ユーザーの場合、圏央道を頻繁に利用しない限り、愛車にETC2.0を装着するメリットはほとんどない。
ネット上には「そろそろETC2.0にしたほうがいい」といった意見もあるが、個人的には、まったくその必要性を感じない。
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