毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はいすゞ ビークロス(1997-2000)をご紹介します。
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文:伊達軍曹/写真:ISUZU
■いすゞのスポーツコンセプト「オールラウンドリアルスポーツ」の集大成として登場
1993年にはSUVとワンボックス車を除く乗用車の自社開発から撤退していた「いすゞ」が1997年に放った、国産車史上トップクラスと言えるほどアバンギャルドなデザインのクロスオーバーSUV。それが「いすゞ ビークロス」です。
ビークロスは、もともとは「ヴィークロス」という車名のコンセプトカーでした。
1993年の「第30回 東京モーターショー」に出品されたヴィークロスは、当時のいすゞ ジェミニ4WDの車台を流用して作られた参考出品車で、その性格は今で言うクロスオーバーSUVそのもの。そしてなんとも有機的かつ前衛的なデザインは来場者に大きな衝撃を与えました。
ヴィークロスはモーターショーでの好評を受けて市販化を決定。ただしジェミニはすでに生産終了となっていたため、市販バージョンの「ビークロス」は、クロカン的SUVであるいすゞ ビッグホーンのショートボディ版をベースに作られることになりました。
東京モーターショーの衝撃から約4年後の1997年に発売されたビークロスは、「ほぼコンセプトカーのまま」とも言えるデザインを全身にまとった、すさまじいまでに前衛的な造形でした。
ボディ表面だけでなく、前後ライト類に至るまでのすべてに曲面が多用され、ボディの下半分には未塗装の樹脂を大胆に採用。
通常、この種の車は車両の後端にスペアタイヤカバーを背負うのが一般的ですが、ビークロスの場合はテールゲートの内部にスペアタイヤを収納。これもまた、ビークロスの「曲面だらけの有機的なデザイン」を決定づけました。
SUVであるにもかかわらずボディタイプは「3ドア」の一択で、エンジンは最高出力215psの3.2L V6。駆動方式は電子制御トルクスプリット4WD「TOD(トルク・オン・デマンド)」でした。
当時の言葉で言う「RV」に「スペシャリティカー」の要素を融合させたいすゞ ビークロスは、一部のコアな車好きにはウケたものの、デザインや存在感があまりにも奇抜すぎたのか、一般層にはあまり受け入れられませんでした。
そのため販売台数は当初から低空飛行が続き、2000年には早くも国内仕様の販売を終了。
その後も北米仕様の生産は続けられましたが、2002年には北米版の生産も終了となりました。
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