■SUVという言葉もなかった時代の、早すぎた「クロスオーバーSUV」
外装デザインに関しては「国産車における金字塔のひとつ」と言えるいすゞ ビークロスでしたが、なぜ、国内仕様は1997年から2000年までという短命で終わってしまったのでしょうか?
さまざまな理由があるはずですが、主には2つの理由がビークロスを「殺した」と考えられます。
ひとつは「早すぎた」ということです。
2020年の今でこそ「斬新なデザインのクロスオーバーSUV」というのは、決してお茶の間向けではないかもしれませんが、ある種の層には確実に刺さるジャンルに育っています。
しかし1997年というのは、まだ初代BMW X5も登場していなかった時代。今で言うSUV、当時で言うRVの主流は古典的な「クロカン四駆っぽいもの」でした。「まったくの他ジャンルと、クロカン的なるものとのクロスオーバー(融合)」という今では当たり前な概念は、まだ一般的ではなかったのです。
そのためビークロスは一部の層には刺さったものの、多くの人にとっては「……なにコレ???」という感じだったのです。
もうひとつの理由は「ベースとなる車両がジェミニ4WDからビッグホーンに変わってしまったから」でしょう。
ビークロスは、どこからどう見ても「山奥で悪路をガンガン走るためのSUV」ではありません。基本的には「主に都市部で使う。だがその気になれば雪道やオフロードなども楽勝で走れる」という車であったはずです(そしてそれは、現在のクロスオーバーSUVのコンセプトそのものです)。
であるにもかかわらず、いすゞが乗用車の開発と生産から撤退していた関係で、ビークロスのベースは本格オフローダーであるビッグホーンになってしまいました。
このミスマッチがなければ、もしかしたらビークロスは「化けて」いたのかもしれません。
もちろん、そのほか「3ドアの設定しかないので不便だった」「外観はさておき、インテリアはけっこう普通でつまらない感じだった」等々の理由もあっての不人気でしたので、乗用車系の車台を使ったとしても、ビークロスが化けたかどうかはわかりません。
しかしビークロスの素晴らしい外観デザインを見ていると、どうしても「時代のめぐり合わせが違っていれば……」と夢想してしまうのです。
■いすゞ ビークロス 主要諸元
・全長×全幅×全高:4130mm×1790mm×1710mm
・ホイールベース:2330mm
・車重:1750kg
・エンジン:V型6気筒DOHC、3165cc
・最高出力:215ps/5600rpm
・最大トルク:29.0kgm/3000rpm
・燃費:7.8km/L(10・15モード)
・価格:295万円(1997年式ベースグレード)
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