2025年5月9日から14日にかけて、日本の自動車メーカー各社が2025年3月期(2024年度通期)の決算を相次いで発表した。トランプ関税など今後の懸念もあるなか、やはり注目されたのは深刻な危機に見舞われている日産の決算だった。
※本稿は2025年5月のものです
文:井元康一郎/写真:日産 ほか
初出:『ベストカー』2025年6月26日号
日産の2024年度通期決算
2024年に深刻な経営危機が表面化した日産自動車。2024年度決算の数字は最終赤字6708億円という悲惨なものだった。この数字のインパクトが大きいため「日産は倒産するのではないか」という懸念も広がっている。
2024年度の日産の経営パフォーマンスがどういうものだったのか、決算発表から読み解いてみよう。
まずはこの巨額の赤字の中身だが、お金を使ってしまい、日産の借金がそのぶん増えるという性質のものではない。
4月に就任したイヴァン・エスピノーサ社長は世界に17ある生産拠点を10に減らし、生産能力を350万台/年から250万台/年に縮小するという再建案を公表した。
閉鎖する7つの生産拠点は日産にとって価値がなくなる。失われる価値として約5000億円を「減損損失」として織り込んだことが巨額赤字の最大要因だ。
減損損失以外の部分でも経営状況は危険水域にあるのだが、“急死”するような状況でもない。
売上高は12兆6332億円と、営業利益5687億円を計上していた前年度と同水準を維持している。売上高は企業経営のすべての源であり、その売上が立っているというのは日産にとって救いといえる。
本業であるクルマの製造販売の儲けを表す営業利益は698億円。12兆6000億円も売り上げながら700億円しか儲けがないというのは悲惨のきわみ。日産の2024年度の販売台数は約335万台だったので、1台あたりの利益はたったの2万円ということになるが、赤字転落は何とか免れた格好だ。
なぜ売上が減っていないのに利益が激減したのかだが、最大の要因は開発費を含む製造原価が前年より3000億円以上増え、10兆9398億円もかかってしまったこと。売上に対する原価率は86.6%に達する。
自動車メーカーの経営においては原価率を少なくとも80%強、できれば70%台に抑えたい。例えばスズキは73.1%だ。
もし日産の原価率が80%で諸経費がそのままなら、粗利は2兆5000億円以上、営業利益は9000億円を超える計算になる。エスピノーサ社長が大胆なリストラを打ち出したのは、日産の持病である原価率の高さを解消できれば光明が見えるはずという思いがあるからだ。
が、リストラを断行しても日産にとっては当面イバラの道が続く。降ってわいた災難は米トランプ大統領の相互関税攻撃。その影響が不透明であることから来期の業績見通しについては売上高のみ12兆5000億円とし、営業利益そのほかのスコアについては未定とした。
業績予想の中で注目すべきは、唯一出された今期の4-6月の3カ月予想の、営業赤字2000億円という数字。企業にとっての本丸である営業損益が3カ月で赤字2000億円というのは、減損処理で帳簿上の赤字が巨額となった2024年度決算と異なり、手元の資金を直接激減させる一大事だ。
経営再建の矢先に日産一社ではどうにもならない環境要因が降りかかるのはツキに見放されたという感が強いが、それを何とか乗り越えないことにはどうにもならない。日産の苦難はむしろここからが本番と言えるだろう。



















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