スバルが誇る水平対向エンジンの名機「EJ20」が、2019年末にその歴史に幕を閉じた。現在は、直噴(DIT)技術を採用した次期型の水平対向エンジンにバトンが渡っている。
個性的な水平対向エンジンは、その魅力で多くのファンの心をつかんでいるが、省燃費性能という観点から見ると苦戦を強いられている。地球温暖化対策のため、世界各国で燃費規制が強化されているなか、その先行きが不安視されている。
スバルとしては水平対向エンジンを手放すという選択肢はないが、厳しい状況にあることは確かだ。水平対向エンジンは生き残るためにいかに活路を見出すべきか、国沢光宏氏が語る。
文:国沢光宏/写真:SUBARU
ベストカー2020年4月26日号
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■現状では違約金覚悟! トヨタの技術に活路を見出すべし
最近「水平対向エンジンは燃費規制をクリアできるんでしょうか?」と聞かれることが多い。実際、アメリカで販売されてる新型アウトバックを日本で発売しないことや、スバルの新型車に高性能エンジン搭載モデルをラインナップできないのは、燃費規制をクリアできないからだ。ちなみに、アメリカでアウトバックやSUVのアセントを販売できるのは、世界で最も燃費規制が緩いためであり、厳しいヨーロッパじゃハイブリッドしかラインナップできない。
少し詳しくスバルと燃費規制の関係を紹介してみよう。ヨーロッパは2021年からJC08モード換算で約20km/L以上の企業平均燃費が求められる。10%悪くなるごとに大雑把に言って1台あたり12万円くらいの違反金を支払うことになります。
スバルの場合、インプレッサのハイブリッドでギリギリ。フォレスターだと6万円くらいの違反金を支払わなくちゃならなくなる。すでにヨーロッパにおけるスバル車の販売台数は、わずか年間3万1000台!
スバル全ラインナップをヨーロッパ全土で販売してこの台数だ。当然ながら燃費のよいヨーロッパ仕様を”適正な頒価”で作ることなどできない。2021年からは燃費イマイチで走りイマイチ、そして価格割高のeボクサーしかなくなる。ここまで読んで「ニュルブルクリンクで優勝してるじゃないか」と思うかもしれないが、少数のプライベーターしかいないクラスにワークスで参戦しても話題にならない。水平対向、ヨーロッパでは2021年をもってフェードアウトしていく。
日本はどうか。2020年からヨーロッパと同じく企業平均燃費が導入される。ヨーロッパを参考にしているため、目標値JC08モードで20.3km/Lとほぼ同じ。ただし目標未達成になった時のペナルティが激しく緩い!
前述のとおりヨーロッパだと基準を10%下回ると、1台売るごとに約12万円。日本といえば、メーカーに対し100万円の違約金だけなのだ。つまり規制値を達成していなくたって100万円払えばいいだけ。ここまで読むと”ザル法”だと思えるかもしれない。
確かに水をすくえないザルのような規制なのだけれど、日本の場合、違う制約が出てくる。国交省の「型式認証」です。新型車を販売しようとしたら、必ず国交省の型式認証を受けなくちゃならない。仮にスバルが規制値をクリアしていない車種の型式認証しようとしたとする。当然のごとく国交省は「燃費は目標達成してますね?」と言う。していなければ認めない。なんたって二酸化炭素排出力の削減は世界的なニーズ。国交省としちゃ譲れません。
そんなワケで新型アウトバックは日本に導入できないし、ましてやアセントなど夢のまた夢。フォレスターやインプレッサに高性能エンジン搭載モデルをラインナップできないのも、現在の水平対向エンジンの燃費が悪いからだ。今後どうか? アメリカで販売されているPHEVや、2025年から始まるアメリカの燃費規制強化に合わせ登場してくるトヨタの技術を使った新世代ハイブリッドを投入してくれば、流れは変わってくるかもしれません。
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