高性能や高級感を目指すクルマは、技術さえあれば、あとはやる気と資金でどうにでもなる。しかし多くの制約のなかで必要な機能と性能を確保し、安価かつ売れる商品として販売したいベーシックカー作りは難しい。池田直渡氏が解説する。
※本稿は2026年2月のものです
文:池田直渡/写真:マツダ、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2026年3月26日号
だからベーシックカー作りは難しい!
ベーシックカーのクルマ作りは難しい。理由はいろいろあるのだが、ひとまず大きいクルマを考えてみよう。いわゆるDセグメント。トヨタ カムリやホンダ アコード、ベンツのCクラスやBMWの3シリーズあたりだ。
どれも価格の高い高級車であり、それが買える一定の高所得者層が高級セダンに求めるものはグローバルで見ても大体同じレベルにある。けれども、小さいクルマに求めるものはもっとバラバラだ。大きく分けると新興国ニーズと先進国ニーズの2つがある。
新興国ではまず価格だ。安くなければそもそも購入候補に入らない。一方で小ささはあまり評価されない。安く作るために一般的に小さくはなるが、同じ値段なら大きく立派に見えるほうが、そして大勢の人と荷物が載るほうが喜ばれる。
一方で先進国でのベーシックカーは、基本セカンドカー需要。彼らにとって重要なのはまず小さく取り回しがいいこと。コスパがよければ、つまり説得力のある美点があれば、多少高くても納得する。
こちらはモノとしてのよさがメインになり、貧乏臭さが嫌われる。最も極端な例はプレミアムコンパクトクラス、いわゆる小さな高級車である。例えばBMW ミニやフィアット 500、レクサス LBXあたりだろう。
新興国と先進国のニーズを折衷
外観の差の最大のポイントは後席乗降性である。トヨタ ヤリスやマツダ2などの、主に先進国に向けたモデルは後ろ下がりのルーフラインを採用しているため、リアドアのオープンラインが後ろ下がりで、後席乗降時の頭入れが悪い。そのリソースをデザインや空力に振り向けている。
対して、スズキやダイハツのクルマは全モデルでリアドアオープニングラインが四角く取られていて、明らかに後席の乗降性優先の配慮が徹底されている。後席を使うことに対する本気度が圧倒的に高いのだ。
先進国向けでこの頭入れ性能を頑張っている例を挙げれば、レクサス LBXとホンダ フィットが珍しい例だろう。
つまり、サイズこそ近いが、基本骨格のレベルで別の商品なのである。よって、本当は自動車メーカーは新興国用と先進国用の2種類のベーシックカーを作らなければならない。
ところがベーシックカーはなかなか儲からない。利益幅はどうしても雀の涙。複数車種に分割するのは難しい。ただし数は売れる。というなかで、各社それぞれの懐事情と相談しながら、ニーズを折衷させつつ、どちらのニーズをメインにするか決めてきた。
日産は少し前までマーチを新興国向けK13型と先進国向けのK14型で作り分けていたが、どちらもすでに撤退。次世代をプレミアムなEV専用モデルに収斂させることを決定した。
2025年秋のジャパンモビリティショーでは マツダのビジョンXコンパクトが注目を集めたが、これも方向性としては、従来先進国向けだったマツダ2よりさらにプレミアムにシフトする方向になるだろう。
トヨタだけが、新興国のベーシックカーをダイハツに任せるという戦略を取り、先進国向けコンパクトだけでも、ライズ、ルーミー、ヤリス、アクア、ヤリスクロス、シエンタ、レクサス LBXというレベル違いの物量作戦を見せつけている。
デリケートで難しい舵取りのなかで、いまベーシックコンパクトからは各社の撤退が相次いでいる。
【画像ギャラリー】ビジョンXのカッコ可愛い内装が最高だな!! マツダ ビジョンXコンパクトとベーシックカー各車の比較集(20枚)画像ギャラリー






















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