四角いボディに刻まれた3本のラインは、現行スズキ スペーシアを象徴するデザインだ。コンテナらしさを表現する単なる飾りに見えるが、実は4枚の異なるパネルをまたいで正確につなげた、生産現場泣かせの造形だった。シンプルに見えて難しい“コンテナボディ”の秘密に迫る。
文/写真:ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】このデザインはマジでお見事!! 我が道を行くスペーシアが見事っ!!(5枚)画像ギャラリースーツケースから頑丈なコンテナへ進化
2023年11月に登場した3代目スペーシアは、全長3395mm、全幅1475mm、全高1785mmの軽スーパーハイトワゴンである。軽自動車の規格いっぱいまで使った四角いボディにより、室内長2170mm、室内高1415mmという広々とした室内を実現している。
ただし、このカテゴリーのクルマは、室内を広くするほど外観が大きな箱に見えやすい。限られたボディサイズで最大限の室内空間を確保するには、ボディ側面を内側へ大きく絞り込むこともできないからだ。
そこでスペーシアは、四角さを隠すのではなく、むしろデザインの個性として積極的に生かしてきた。
先代の2代目スペーシアは、旅に出かけるときのスーツケースをモチーフとしていた。ボディ側面やインパネ、収納部分などにスーツケースらしい意匠を取り入れ、「ワクワク感」を表現。実用性を優先した背の高い軽自動車でありながら、遊び心のあるデザインとして好評を得た。
現行型では、そのモチーフをスーツケースから頑丈なコンテナへ変更した。家族の荷物をたっぷり積み、毎日の買い物や送迎、レジャーまで幅広く使えるスペーシアの性格を、丈夫で収納力に優れたコンテナになぞらえたのである。
そのコンテナらしさを最も分かりやすく示しているのが、ボディ側面を前後に貫く3本のラインだ。プレス加工によって鉄板に付けられた細長い凹凸で、専門的には「ビード」と呼ばれる。
一般にビードには、平らな鉄板の剛性を高める役割もある。しかし、スペーシアの3本のビードは、ボディの面剛性を高めることが主目的ではないという。コンテナの外板に入った補強リブを思わせる形によって、スペーシアならではの四角く頑丈な印象を表現するためのデザインなのだ。
大きく平らに見えやすいボディ側面に3本のラインを入れることで、光の当たり方による表情も生まれる。前後方向へ伸びるラインには、背の高いボディを視覚的に安定させ、実際の寸法以上に伸びやかに見せる効果もある。
わずかなズレも目立つ生産現場泣かせのライン
スペーシアの3本のラインがスゴいのは、その長さだけではない。ラインは一枚の鉄板に刻まれているのではなく、フロントフェンダー、フロントドア、リアスライドドア、リア側のボディという4つの異なる部品をまたいでいる。
それぞれ別々に造られた4枚のパネルを車体へ取り付けたとき、3本すべてのラインが一本につながって見えなければならないのだ。
クルマのドアとボディの間には、開閉するための隙間が設けられている。しかもフロントドアはヒンジを支点に外側へ開き、リアドアはボディに沿って後方へスライドする。役割も動き方も異なる部品に刻んだラインを、完成車の状態でぴたりと合わせるのは簡単ではない。
ビードの位置がわずかに上下したり、角度が微妙に変わったりするだけでも、長いラインではズレが目立ってしまう。一本だけならまだしも、スペーシアでは3本を同時に合わせる必要がある。設計段階の基準位置だけでなく、プレス成形されたパネルの精度や、車体へ組み付ける際の精度も厳しく管理しなければならない。
開発段階では、デザインを見た関係者から「本気でやるのか」と声が上がったという。それほど設計や生産の負担が大きい造形だったわけだ。それでも開発陣は、コンテナらしさを表現するにはこの3本のラインが欠かせないと判断。デザイン、設計、生産技術の各部門が連携し、どの位置を基準に合わせるかを詰めていった。
何か特別な製造技術を発明したわけではない。狙った形状を正確にプレスし、それぞれの部品を狙った位置へ正確に組み付ける。自動車造りの基本を、ひたすら突き詰めることで実現したという。
完成したスペーシアを横から眺めれば、3本のラインはごく自然につながっている。苦労の跡を感じさせないからこそ、デザインとして成功しているともいえるだろう。
広さや燃費、便利な装備に注目が集まりがちなスペーシアだが、その四角いボディにもスズキのこだわりが詰まっている。次に実車を見る機会があったら、ぜひ少し離れた位置からボディ側面を眺めてほしい。何げなく走る3本のラインは、4枚のパネルを寸分違わずつないだ、開発と生産現場の努力の結晶なのである。
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