多くの犠牲者を出した7月の九州北部の豪雨災害。被害に遭われた方々には謹んでお見舞いを申し上げます。
さて今回取り上げるのは、その九州北部豪雨の現場となった福岡、大分の両県に派遣された車両です。その名も全地形対応車「レッドサラマンダー」といい、上記の写真を見ればわかるように厳つさの塊といった雰囲気を醸し出しています。
まだまだ水害が発生する可能性が高い、災害大国日本。ここでレッドサラマンダーの実力をご紹介。
文:ベストカー編集部 写真提供:愛知県岡崎市消防本部
ベストカー2017年8月26日号「これは珍なり」
■キッカケは3.11、「兜」がモチーフ
「レッドサラマンダー」とは、2013年3月に全国でたった1台が愛知県岡崎市消防本部に配備されていた全地形対応型の災害救助救援車両。
ちなみに車名の「サラマンダー」とは炎を司る精霊の名前から取られており、そのフロントマスクは日本の「兜」がモチーフとなっている。
そもそも2011年3月に発生した東日本大震災の教訓から総務省消防庁が導入を決定した車両で、津波が発生しても水深1.2mまでは走行可能で、一般車がとても走れないようなガレキの上や段差、荒れ地も問題なく走れる。
そのボディサイズもなかなかのもので、全長8200mm、全幅2200mm、全高2600mm。スペックのほうも全地形対応車の名に恥じないもので、車両重量は1万2000kg、最大積載人員は前部シャシーに4人、後部ユニットに6人の計10人。
最高速度は50km/h、最大登坂能力は50%、最大乗り越え段差60cm。最大溝乗り越え幅2m、稼働可能気温はマイナス30℃という桁外れにタフな能力を誇る。車体を浮かせることなく走行することが可能な無限軌道式(クローラー)を採用していることが大きな特徴。
現場へは自走するワケではなく、基本的に専用の運搬用車両を使って現場周辺までいくことになっている。また、前と後ろで分離構造になっているため、航空自衛隊との連携で輸送機を使った空輸も可能だとのことだ。
レッドサラマンダーを運転するには大型特殊免許を必要とするので、岡崎市消防本部の隊員はそのためにわざわざ大型免許を取得したという。
販売は防災車両などで実績のある「モリタホールディングス」(本社・兵庫県三田市)が担当しているが、製造元は「STエンジニアリング」というシンガポールの特殊車両メーカーだ。そのお値段、1億1000万円ということもあり、日本国内でモリタが販売したレッドサラマンダーは現在この1台だけなんだそうな。
■本当は活躍する場面がないことがベストだが
なぜ、このレッドサラマンダーが愛知県岡崎市に配置されているかというと、「岡崎市が日本のほぼ中央に位置しているため、東日本、西日本のどちらにも移動しやすいこと。それに消防署自体が高速道路に近かったことが理由です」(同市消防本部)とのことで、仮に南海トラフ巨大地震が発生しても津波災害の恐れがないことも配備の理由となったらしい。
このレッドサラマンダー、4年前に配備されてから今回の九州北部豪雨が初めての救出活動への出動となった。
気象庁が福岡と大分両県に対して大雨特別警報を出した2017年7月5日に即日岡崎市を出発し、7日から災害現場となった大分県日田市や福岡県朝倉市で救助活動をスタート。孤立した集落での住民の安否確認、機材や資材、それに消防隊員の搬送などを主業務として実施したとのこと。
九州北部豪雨災害のような特別災害のほか、9月以降は本格的な台風シーズンを迎える日本列島。本当は(どれだけ高価であろうとも)配備以降一度も使用されないことがベストなのだが、しかしそうも言っていられない実状もある。
「備えよ常に」。レッドサラマンダーが活躍する場面には、(訓練を除き)いつも誰かの被災がある。それでもその被害を少しでも減らすため、今後も活躍してほしい。
【レッドサラマンダー 主要諸元】
- 全長8200×全幅2200×全高2600mm
- 車重12,000kg
- 総排気量7240cc
- 乗車定員10名
- 最高速度50km/h
- 最大乗り越え段差600m
- 最大溝乗り越え幅2000mm
- 最大登坂能力50%
- 車両本体価格1億1000万円
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