同じタイ生産でもキックスは品質管理を大幅に改善
日産の開発者は以下のように述べている。
「キックスについては、マーチとは品質管理の方法を大幅に改めた。品質管理担当者だけでなく、車両の開発者もタイの生産状況を確認している。
またタイから日本に輸入された後、改めて日本で検査するシステムも新たに整えた。日本に輸入した後で修正を加える必要はまったくないが、入念にチェックしている」という。
これらの成果で、キックスの品質は、マーチに比べて明らかに高まった。インパネ周辺の造りなど、ヴェゼルやC-HRなどのライバル車を超えるほど上質ではないが、見劣りする印象は抑えた。
タイ工場の品質は今後も向上するから、近い将来、国内生産と同じ水準に達するだろう。従って「タイ生産のクルマは売れない」というジンクスは、ある程度は破られる。
しかし絶好調の売れ行きとするのは難しい。なぜなら日本メーカーの海外生産車には、タイに限らず品質以外の課題も多いからだ。
まず輸入車だから、日本製に比べて、生産から納車までに手間と時間を要する。要は納期が全般的に長い。
トヨタの商用車となるタウンエース(ライトエースは廃止)も、現行型はインドネシア製の輸入車だ。販売店によると「現行型では納期は5か月から7か月を要する。商用車の場合、スグに納車を希望するお客様も多いので、もう少し短く抑えて欲しい」という。
しかも海外生産は合理化を目的に実施されるため、多彩なバリエーションは用意しにくい。キックスは実質1グレードで、装備を充実させたe-POWERのみだから価格は270万円を超えた。
マーチは複数のセレクションを設けるが、基本は3グレードだ。生産ラインで装着するメーカーオプションも限られ、仕様と価格の幅を広げにくい。
エンジンの種類は、マーチ、ミラージュ、ハンガリー生産のエスクードやSX4Sクロスを含めて1タイプしか選べない。インド製のバレーノは2種類を用意したが、先ごろ国内販売を終えた。
納期が長いので、実質的に生産計画が優先され、ユーザーも与えられた選択肢から選ぶ。グレードが少ないから、選ぶといってもパッケージとボディカラー程度だが、個性的な色彩を希望すると車種によっては納期が3か月以上に長引く。
特別仕様車も国内生産車に比べると設定しにくく、細かな対応を迅速に行うのは困難だ。
キックスで見せた改善は国内外の顧客満足度を高める
また、品質を向上させても、基本的には海外向けの商品だから、日本の顧客満足度だけを追求することはできない。
キックスの開発者は「ジュークでは後席と荷室の広さがお客様の期待を下まわり、国内販売をキックスに切り替えた」というが、キックスの後席も決して広くはない。
足元空間はヴェゼルよりも狭く、座り心地は硬めだ。荷室拡大のために背もたれの角度を立てたから、拘束感が生じた。後席を使った状態で、900mmの荷室奥行寸法を確保した結果、後席の足元空間が狭まった事情もある。
そこでキックスのユーザー年齢層は、20~30代と50~60代としており、後席が重視される子育てファミリー層は除いた。
車両カタログにも、後席に乗員が座っている写真は掲載されないが、日本ではコンパクトSUVもファミリーカーとして人気が高い。
後席にスライド機能を装着して、乗車人数や荷物の量に応じて調節可能にすると便利だ。このように合理的な海外生産車でありがら、いかに日本のユーザーニーズに合わせられるかが、今後の課題になる。
それにしても、タイ製のマーチ、インド製のダットサンブランドなどが商品を粗く造って売れ行きを下げたのは、日産のやり方としてイメージが悪かった。「大切なのは安さで、品質はこんなモンでイイでしょ」という思惑が透けて見えたからだ。
市場のニーズに応じた商品を投入するのは大切だが、品質に差が生じてはならない。商品の品質は、顧客を尊重する気持ちの表現になるからだ。
キックスで見せた改善は、タイ製品を購入する日本のユーザーだけでなく、海外の顧客満足度も高める。そこが大切だ。
個人的には「新興国」という表現と語感も、良識に欠けるように思う。
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