日産 GT-Rも開発の舞台として選んだドイツ・ニュルブルクリンク、通称“ニュル”。これまで多くの欧州車が市販前のテストをここで行い、車の完成度を上げてきた。
そんな“車作りの聖地”を、トヨタはなんと愛知県内に再現しようとしているという。このような話が出るほど、ニュルはどこが特別なのか?
GT-R開発責任者を務めた経験を持つ水野和敏氏が、エンジニア的視点からその理由を解説。
文:ベストカー編集部/写真:編集部、NISSAN
ベストカー2017年7月26日号
ニュルは「懐の深い安全な車」を産みだす
第一次世界大戦後、ドイツは経済復興対策とともに世界の自動車王国としての地位を確立するためにニュルブルクに自動車開発用のコースを作りました。
建設当時の低い速度でしか走れない車であれば安全に開発できたこのコースも、現代のはるかに走行スピードが高くなった車にとってニュルは入力が大きく危険なコースに変わり、これが結果的に車の耐久信頼性と走りの懐の深さを作りだすこととなりました。
先の見えないブラインドコーナーと複雑なアップダウン、そして荒れている路面は、単に目先のタイムではなく、どんな状況においても操安性(=操縦安定性)バランスがよく扱いやすい懐の深い安全な車が作れます。
サスペンションの上下荷重でも、エンジンの負荷でも。“本当の意味でいい車”を作るには残念ながら、現状の日本の環境では困難といわざるを得ません。
なぜGT-Rはニュルを使って開発したのか?
私はGT-Rの発表会などあらゆる機会のなかで公に「なぜニュルを使って開発したのか」説明をしてきました。
ここで復習となりますが……、例えば入力ひとつとってみても、通常のメーカーのテストコースの入力を1とすると、仙台ハイランドでは2倍以上に、さらにニュルになると5倍程度になります。
そういう意味でニュルの開発は、パワートレーンやシャシーなどいろいろな部品の耐久性、信頼性を国内で開発するだけよりもさらに上げることになります。ニュルの過酷さや入力の大きさと比較すると、ふつうのテストコースは盆栽の箱庭にさえ見えます。
仙台ハイランドを日本の開発拠点にしたのも、路面が荒れて入力も大きく、見とおしが悪い難しいコースだったからです。ここでの車両セットはそのままニュルでも使えました。ところが、路面が綺麗に整備されて見とおしがよく安全な菅生や富士での車両セットはニュルには通用しませんでした。
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