■国内で減少の販売台数、世界全体で見ると増加
しかし売れ行きは、マツダが大幅に伸び悩む。2020年の後半から2021年に掛けての1カ月平均登録台数は、CX-30が1500~2500台、CX-5は2000~2500台、CX-8は1500~2000台程度だ。
トヨタの場合は、同じ時期にライズが1カ月で7000~1万台、ヤリスクロス(ヤリスを除く)は8000~1万台、高価格車のハリアーも8000~9000台は登録している。マツダのSUVは、トヨタに比べて登録台数が大幅に少ない。
マツダの1年間の国内販売台数(軽自動車などを含む総台数)は、2010年が22万3861台であった。直近ではコロナ禍の影響を受ける前の2019年が20万3576台、2020年は17万7043台だ。つまり2012年に先代CX-5を発売した後のマツダ車は、それ以前に比べて売れ行きが低下している。
ちなみに2010年の時点では、ミニバンの『プレマシー』が2万5553台、『ビアンテ』も1万1909台が登録されていた。これらミニバンの廃止によって減少した登録台数を、SUVを中心とした新型車でカバーできていないわけだ。
それでも海外市場まで含めた世界生産台数は、2010年が130万7540台、2019年は148万7917台、2020年は117万51398台だ。世界レベルで見ると、コロナ禍の2020年を除いた2019年は、2010年に比べて約18万台増えた。比率にすれば14%の上乗せで、主にCX-5とマツダ3がマツダの好調を支えている。
■「魂動デザイン」と個性の狭間
マツダがSUVを豊富にそろえたのに国内市場で売れ行きを伸ばせない一番の理由は、SUVの特性を生かせていないデザインにある。
SUVの一番の魅力は、ミニバンやセダンと違って、ひとつのカテゴリーで多彩なデザインを成立できることだ。例えばトヨタのミドルサイズSUVの場合、都会的な前輪駆動ベースの車種にはハリアーがあり、対称的な悪路向けとしては後輪駆動ベースのランドクルーザープラドが用意される。その中間には、ハリアーと同じプラットフォームを使いながら、悪路向けのデザインと機能を兼ね備えた中間的なRAV4がある。
さらにトヨタのSUVでは、ヤリスクロス、ライズ、C-HRなど、各車種ともに外観の雰囲気が異なる。前輪駆動のSUVを分類すれば、シティ派がヤリスクロス/C-HR/ハリアー、悪路のイメージを感じさせるラフロード派がライズ/RAV4に分けられるが、各車種のデザインは異なる。
そのために商品力の幅も広がったが、マツダの場合はMX-30が異なるもの、CX-3/CX-30/CX-5/CX-8は従来の魂動デザインで統一されている。当然ながら外観も似かよってしまい、さまざまなデザインを成立させられるSUVのメリットを生かせていない。マツダのホームページにアクセスして「カーラインナップ」を見ると、まさに同じようなクルマがズラリと並んでいる。
マツダはデザインを統一させてメーカーの個性を際立たせる戦略を採用したので、トヨタのようなSUVの多彩な特徴を生かす商品造りは宿命的に行えない。デザインを含めたマツダの戦略が、SUV本来の可能性を狭めた面がある。
ただしデザインを統一させてブランド表現を行うクルマ造りは、メルセデスベンツやBMWも古くから行っているが、統一を図りながら車種ごとの個性も巧みに演出している。メルセデスベンツの場合、コンパクトなSUVでも『GLA』は5ドアハッチバック風で、『GLB』はルーフを高めに設定してワゴン風に仕上げた。
マツダもMX-30では、スポーティなCXシリーズとは違う穏やかな内外装を表現している。今のマツダのSUVは、CX-8を除くと全高が1540~1690mmだが、新たなMXシリーズで1700mmを超えるSUVもそろえると、従来のCXシリーズとは異なる雰囲気を演出できる。
SUVに限らず、マツダ車が売れ行きを伸ばせないのは、ブランドの統一された表現が画一化や硬直化を招いているからだ。「こうあらねばならない」という発想の見え隠れするクルマ造りが弊害になり、好きな人は全車を受け入れるが、そうでない人は全滅する。「CX-3は嫌いだけど、CX-30は好き」という選択が成立しにくい。そこがトヨタのSUVラインナップとの違いだ。
運転感覚については、安全のために走行安定性を最優先させるから車種ごとの個性を表現しにくいが、内外装のデザイン、車内の広さ、荷室の使い勝手にはある程度の選択肢を用意したい。今後マツダのSUVに新しいデザインが採用されると、世界観も広がって売れ行きも伸びるだろう。その意味でもMX-30の後に登場するマツダ車が楽しみだ。
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