■監督官庁や業界に募る危機感 その取り組みは?
それだけに監督官庁や業界では危機感を募らせており、荷役作業時の死傷事故を少しでも減らすためさまざまな施策を行なっている。
厚生労働省では「荷役作業時における墜落・転落災害防止のための安全マニュアル」「荷役作業安全ガイドライン」などを策定し、注意喚起を促すとともに、運送事業者および荷主等がそれぞれ取り組むべき事項を示している。
また運送事業者の業界団体である全日本トラック協会でも、荷役作業の労働災害の多くが荷主、配達先、元請事業者等の事業場構内で発生していることから、個々のトラック運送事業者による安全対策だけでは限界があるとみている。
また、出先ではトラックドライバーが運送契約に基づかない付帯作業を要求されているケースも目立つため、荷主等にも協力を要請している。
ただ、いくら「荷役作業安全対策マニュアル」があっても、トラックドライバーは時間に追いまくられることが常なので、マニュアル通りに安全対策の手順を踏むことができないという背景もあるだろう。
また海外では、荷役作業を行なう専任の人員がいるケースが多く、徐々に日本でもそういった事業場が増えてきているが、現実には、荷役の作業分担がグレーゾーンのまま、トラックドライバーに荷役を強いる悪しき慣例がまだまだ横行しているのが実態だ。
しわ寄せを喰らうのは、いつも最も弱い立場のトラックドライバーなのである。
■オールトラック業界で荷役作業時の事故の防止を!
ところで、冒頭で10年前に比べ交通事故で死傷するトラックドライバーが大幅に減ってきていることをご紹介した。それは先進安全装備をはじめ、トラックの安全対策が大幅に向上したことが影響していると思う。
トラックメーカーの功績は大きいと思うが、安全対策は交通事故防止だけで「よし」というわけにはいかない。
荷役作業時の安全対策にトラックメーカーが関与できる素地はまだまだあるのではないか。
今や日本の大型トラックでは、シャシーとボディをコンプリートで販売するメーカー完成車が主流になっているが、であればなおさら、トラックメーカーは架装メーカーと手を携えて荷役作業時の安全対策にも力を入れるべきではなかろうか。
突拍子もない話に聞こえるかもしれないが、トラックドライバーの死傷事故は、荷役作業中が交通事故の14倍も多いという事実、また、すでに10年以上前から「荷役作業安全マニュアル」などが策定され、注意喚起を促し、運送業界で対策に取り組んできた。
しかし一向に事故が減らない事実をかんがみると、荷台への昇降のしやすさをはじめ、もっと人間工学に基づいたハード寄りの対策が必要なのではないか。トラックメーカーの奮起を望みたい。
いずれにしても荷役作業時の死傷事故の防止は喫緊の課題である。行政も運送事業者も荷主も、そしてトラックメーカーも架装メーカーも、この課題に積極的に取り組まない限り、トラックドライバーになろうという人間は減るばかりだろうし、トラック運送事業の未来は暗いといえるのではないか。
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出展資料/「労働災害発生状況」(厚生労働省労働基準局安全衛生部)・「陸運と安全衛生」(陸上貨物運送事業労働災害防止協会)・ほか
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