■日本の新車販売市場には売れない要因が盛りだくさん
口八丁手八丁で売り込んで納得して買ってもらったクルマを、次は初回車検ほどの短いタイミングで乗り換えさせてしまおうという売り方には、「ユーザーが愛車への愛着がやっと出たころに入れ換えさせるのは、新車販売業界自らが消費者のクルマへの興味を薄めているようにも見え、それはいかがなものか?」といった思いを持つ人もいるだろう。
ただ、残価設定ローンを利用しての新車購入が当たり前のようになってきている現在では、「現金で30万円入れてくれれば、月々の支払い額はそのままに新車へ入れ換えることができますよ」などと、セールスマンがお客に“甘い囁き”をしやすくなっているのも確か。
ましてや、今はまだ世界3位の新車販売市場であるものの、市場規模は縮小の一途とたどっており、インドなどに抜かれるのも時間の問題ともいわれている。
そのなかで日本車が壊れにくいことは世界共通認識にもなっているので、放っておくと初度登録から13年超を迎え、自動車税がアップした時に、ようやく長く乗り続けていることに気がつくというユーザーもとても多い。
そこから「新車に乗り換えようかな」と気持ちが変わるのを待っていたら、新車ディーラーの商売が成り立たないともいえよう。
それでなくとも、高齢ドライバーの運転免許自主返納や、若い世代の“クルマ離れ”も、新車販売の低迷の要因として問題となっている。
前述したように、自分で売っておいて、初回車検が来るか来ないかという短いスパンで新車へ乗り換えさせることに違和感を覚える人もいるかもしれない。しかし、新車販売市場の活性化を考えると、やむを得ないのではないかという意見があるのも確かなのだ。
■トヨタ系ディーラーの必殺わざ! “提案型営業”とは?
それでは、ほかのメーカー系ディーラーも、トヨタと同じように初回車検のタイミングを狙って積極的に新車への乗り換えを薦められるかと言えば、それはなかなか難しいだろう。トヨタ系ディーラーセールスマンの多くは、“提案型営業”というスタイルを得意としている。
これは、「新車に乗り換えたい」という来客があってから商談を始めるのではなく、お客は新車への乗り換えを真剣に考えていないのに、「今ちょうどお薦めできる新型車が出ました。見積りを作ってみたら、下取り査定額も結構よく買い得になりました」と、新車購入の提案をして商談に持ち込むこととなる。
過去に販売した、管理ユーザーのなかで、性格やクルマへの趣向性などを勘案し、自分で“攻め時”を決めて新車を売っていくのである。
これは、かつての“昭和”という時代には、クルマだけでなく家電製品あたりでも、街の電気屋さんが、得意客の家にある電化製品の様子を見ながら、新機種への買い替えをタイミング見計らって売り込んでいたのと同様だ。
トヨタ車ユーザーのなかには、比較的にこのような提案型営業を好む人も多く、平成、令和と時代が変わってもトヨタ系ディーラーでは脈々と受け継がれており、これが“トヨタ一強”を支えているといってもいいだろう。
トヨタ以外のメーカー系ディーラーでも、提案型営業をまったく行っていないとは思えないが、幅広く令和の時代でも行っているのは、トヨタとスズキぐらいといえるだろう。
トヨタ系ディーラーセールスマンはよく、「他メーカー車と比較検討されることはない」と言っている。しかし、実はトヨタ車ユーザーとトヨタ系ディーラー&セールスマンとの“阿吽の呼吸”のようなものを、他メーカー車に乗るユーザーがトヨタディーラーを訪れた際に感じてしまい、「トヨタ車はやめておこう」となっているのかもしれない。
トヨタユーザーのなかで新車の乗り換えを繰り返すだけでも相当の台数となるので、このような他メーカー車のユーザーの動きがキャッチできていないのならば、思わぬトヨタ車販売の“アキレス腱”といっていいかもしれないだろう。
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