新型車が登場した際、メーカーによる広報資料に「車体剛性が30%アップした」と書かれていることがしばしばある。「3割も向上」と聞くと、それはいいクルマになったのだろう、と感じてしまうが、実は、それほど効いていないこともしばしばある。
多くの人が読み飛ばしてるであろう「車体剛性」という言葉。なぜ、車体剛性が高いとクルマはよくなるのか。車体剛性が向上したのにクルマに効いていない理由とは!? 自動車メーカーでクルマの運動性能エンジニアをしていた筆者が解説していく。
文:吉川賢一
写真:NISSAN、LEXUS、TOYOTA、HONDA、RENAULT、SUBARU
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コーナリング中の車体には「横曲げ」と「ねじり」の複雑な入力が
車体剛性は、クルマのコーナリング性能に大きく関係してくる。クルマは、ステアリングホイールを操作すると、ステアリングコラムを通じてステアリングラックのギアを摺動し、フロントタイヤの向きを変え、スリップアングルを付けて、コーナリングフォースを発生させ、進行方向を変えている。
また、旋回運動はリアタイヤも重要で、フロントタイヤがコーナリングフォースを発生してからわずかに遅れて、リアタイヤにもスリップアングルが付いてコーナリングフォースが発生し、定常旋回へと移る。
そのシーンを車体上側から見下ろすと、旋回外側に向けて、車体はわずかに「くの字」型に曲がる。遠心力で外側へと膨らみたいボディと、前輪と後輪で発生したコーナリングフォースとが、釣り合うような状態となるのだ。
この「くの字」変形が大きくなると、フロントの反応遅れや、リアの追従性が悪化することになる。そのため、コーナリング中の車体には、「横曲げ変形」を低減する構造が求められる。
また、コーナリング中は、ロール(真正面から見たときのクルマの傾き)が生じることで、車体全体が捩じられるような力も働く。右旋回をイメージすると、前後の左輪(外側)は接地荷重が増加し、右輪(内側)は接地荷重が減少するのだが、その際、前左輪のサスがついている車体取付点(マクファーソン・ストラット式ならば車体側のストラットタワー頂点)を押し上げるような力となる。
また後左輪も、サス(リンク部品やスプリング、ショックアブソーバー)が取りつく車体取付点に、突き上げるような荷重がかかる。
こうして1つのコーナーの走行を考えるだけでも、「横曲げ」と「ねじり」の複雑な入力が、大きさとタイミングを変えながら車体に襲い掛かっているのだ。
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