イタリアの名門デザイン工房、イタルデザインが手がけたGT-R、「GT-R50byイタルデザイン」が注目を集めている。言わずと知れた日本を代表するハイパフォーマンスカー、GT-Rをベースに、従来型とは大きく印象の異なるスタイリッシュなデザインに仕上げたその手腕は見事だ。現在では少なくなったものの、過去にはイタルデザインがデザインを手がけた国産車が数多く産み出されてきた。なかには今見ても色褪せないスタイルを持つ名車のほか、ちょっと意外な珍モデルも存在している。
文:清水草一
写真:編集部、NISSAN、ISUZU、SUBARU、SUZUKI
昔より減った? GT-Rに見るイタルデザインと国産車の関係
イタルデザインが手がけたGT-Rのプロトタイプ車が発表され、「カッコイイ!」と衝撃が広がっている。
ベースはあくまで現行GT-Rであり、基本フォルムは変わっていないが、無敵の戦車感はそのまま維持しつつ、より洗練されており、ぐっと上質になったと言おうか?
フロントは丸みを帯びたことで、ヨーロピアンなスポーツクーペ的だが、リアの角ばった造形+ゴールドの配色は、ギラギラした高級戦車。せり出すリヤウイングが、男の秘密兵器感を高めている。
ところでこのプロトタイプ、日産によれば、「独創的でキレのよい内装・外装デザインは、ロンドンの日産デザインヨーロッパと、日産デザインアメリカが担当しました」とのことで、イタルデザインは「本プロトタイプの開発、設計、製造を手がけました」となっている。
昔の感覚だと「逆じゃないの?」となるが、現在、イタリアのカロッツェリアが、自動車メーカーのデザインを委託されることは極めて稀になっており、もはやデザインは、メーカーが社内で行うもの。
その流れに従って、デザインは日産が内製し、それを具体的なカタチに仕上げたのがイタルデザイン、という役割分担になったのだと推測される。
初代ゴルフも手掛けた「イタルデザイン」とは?
ところで、「イタルデザイン」とはどんな会社なのか。
イタルデザインは、自動車史上最高のデザイナーのひとりと目される、ジョルジェット・ジウジアーロ氏が、1968年に設立したカロッツェリアで、これまで数多くの名作を世に送り出してきた。
代表作は、VWの初代ゴルフや初代シロッコ、フィアットの初代パンダ、ロータス エスプリなど。
エッジのきいた直線的なデザインは、“折り紙細工”とも呼ばれたが、そういう作品ばかりというわけではない。
特にジウジアーロ氏は、イタルデザイン設立前のベルトーネやギア時代(いずれもイタリアに本拠を置いたカーデザイン会社)には、いすゞ 117クーペやマセラティ ギブリなど、流麗で有機的な傑作も数多く生み出している。
それはともかくイタルデザインは、国産車のデザインも意外なほど多く手掛けている。その中から、名作3選に加えて、非名作も3台選んでみた。
今も色褪せないイタルデザインが手がけた3台の国産名車
■いすゞ ピアッツァ(1981-1991年)
その3ドアハッチバックの、スポーティかつエレガントなフォルムは、「こんな国産車が出るのか!」と、当時の日本人を震撼させた。
いすゞのスポーティカーと言えば、117クーペの記憶がまだ濃厚だったが、同じジウジアーロ作品でも、それとはまるで違う未来的なスタイリング。それでいて実にシンプルで美しい。
当時「マヨネーズのチューブ」などと揶揄されもしたたが、それだけ流麗なフォルムだった。
個人的には、登場から20年以上を経て、ついに試乗が叶ったが、その美しさはまったく色褪せておらず、路上にたたずむ姿にしばし陶酔いたしました。平伏。
■いすゞ ジェミニ(1985-1990年、2代目)
中年世代なら、「街の遊撃手」のCMを覚えていることだろう。
この2代目ジェミニには、3ドアハッチバックと4ドアセダンがあったが、特にハッチバックのシンプルな美しさは、さすがジウジアーロと言うしかない。
折り紙細工的なエッジを効かせつつ、奥深い曲面を持つボディパネルの構成は、イタルデザインのひとつの典型である。
ちなみに、このジェミニの2年前に登場した5代目カローラも、イタルデザインによるもので、こちらもジェミニ同様、エッジの効いた直線基調。歴代カローラ史上、最もシンプルで美しいフォルムを持っている。
■スズキ SX4(2006-2014年)
地味な佳作ではあるが、クロスオーバーSUVの創成期を感じさせる、陽気で開放的な雰囲気がイイ。
加えて、ほのかに漂うオシャレ感。ひょっとして、イタルデザイン最後の名作と言えるのかもしれない。私はこれを勝手に「沖縄カー」と呼んでおりました。
一方、イタルデザインとて名車ばかりではない。失敗とまでは行かないが、いまひとつだった作品もある。
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