親子二代で紡ぐドライバー業!! 天国の同僚ムラちゃんが託した20年前の扇風機

再会、そして突然の別れ

 そして、2カ月ほど経ったある日「ムラちゃんが仕事に来ている」との連絡を受け、すぐに連絡を入れ、「体調どうや? 無理せずボチボチ頑張ってな!」と、短時間でしたが、ムラちゃんと話をすることができました。翌日の朝方、車庫で偶然見かけたムラちゃんは、ゆっくりトラックから降りるところでした。ムラちゃんの顔を見ると、頬は垂れ下がり、身体もやせ細り、まるで別人になっていました。

 私は、昨夜、ムラちゃんを励ますつもりでかけた「軽い言葉」を恥じ、言葉には出しませんでしたが「ゴメン」と、心のなかで呟きました。

 トラックから降りてきたムラちゃんは、私に気づき、ゆっく、ゆっくり、近づいてきて、伏し目がちの私に向かって、クルマを指差し「おつかれ~。あそこに置いてあるやつ。クルマ買い替えてん。嫁は絶対買わないって言ってたんやけど、中古ならいいよってことで。カッコいいやろ!」と言うので、「おー! カッコいいやん。良かったなぁ」と言うと、嬉しそうな顔をして、軽く右手を挙げ、自宅へと帰って行きました。

 それから2週間ほどして、急にムラちゃんの体調が悪くなり、緊急入院。その1カ月後に、ムラちゃんは天国へと旅立ちました。30歳でした。

ムラちゃんの息子も運転手に

 月日が流れ、風の噂で「ムラちゃんの息子がトラックに乗っている」と聞き、すっかり記憶から抜け落ちていた思い出が走馬灯のようによみがえり「時がたつのはホントに早いなぁ」と、しみじみ思いました。
 私はいつしか、ムラちゃんから貰ったミニ扇風機をムラちゃんの息子に渡したい! と考えるようになりました。できれば動いているうちに……。しかし、「そんな古い扇風機なんかいらへん!」とか言われたらショックだろうなぁ、とか、タダの自己満足では? など不安もありましたが、やはり「扇風機」を渡す決意をしました。

ムラちゃんの息子もトラック運転手に
ムラちゃんの息子もトラック運転手に

 その後、知り合いのドライバーを通じて、「ムラちゃんの息子」に会える機会を作って頂きました。街の小さな喫茶店で待ち合わせることになり、私は時間よりも少し早く到着し、コーヒーを飲みながら、彼を待っていると、喫茶店に「大柄な青年」が入ってきました。ムラちゃんはどちらかというと小柄だったので、その彼が「ムラちゃんの息子」だとは考えもせず、スマホをいじっていると、私のところに近づいて来て、「○○さんですか? ○○の息子です」と言うではありせんか!

 ムラちゃんの葬儀のとき、泣きじゃくって母親のそばから離れようとせず、時折、母の後ろに隠れていたあの「小さな男の子」が、「リッパな青年」に成長しており、その姿を見て私は不覚にも泣きそうになりました。なんとか堪らえて、「立派になったなぁ。お父さんもきっと喜んでいるよ!」答えました。

 その言葉を聞いたムラちゃんの息子は、すこし照れくさそうにハニカミながらテーブルを挟んだ向かいのイスに腰を下ろしました。それから当時のムラちゃんの仕事ぶりや、皆に慕われていたこと等、「思い出話」に花を咲かせていました。しばらく経ち、話も一段落したところで、いよいよ本題へと話を進めることにしました。

年代物の扇風機が紡ぐムラちゃん親子との縁

 「今日、自分に渡したいモノがあるねん。この年代モノの扇風機なんやけど、20年前にキミのお父さんから頂いたモノやねん。まだ現役で動くねん! スゴイやろ。こいつを、是非、キミに貰って欲しいけど、どうかな?」と尋ねました。

 すると、彼から笑顔が無くなり、しばらくうつむき、そして、ゆっくりと顔を上げ、目に涙を浮かべながら「ありがとうございます。大事にします」と両手を添えて、そっとやさしく、我が子を抱くように受け取ってくれました。

 彼と別れたあと、とても気持ちが軽くなり、「扇風機を渡すことができて、本当に良かった」と思いました。私にはまだまだ手のかかる子供が2人おり、立派な青年になったムラちゃんの息子を見て、少しだけムラちゃんがうらやましく思ったりもしました。彼の母親は、亡くなった父親と同じ職業を選んだ息子をどう思っているのだろうか? 「長距離運行に出かけるときは、心配しているのだろうなぁ」とか考えながら、家路を急ぎました。

ムラちゃんの替わりにトラックの仕事の大切さを伝えます
ムラちゃんの替わりにトラックの仕事の大切さを伝えます

 電話番号も交換し、時折、私に電話をかけてきます。「眠気覚ましに電話した~。やっさん、何してるの?」等、今ではすっかり「タメ口」です。自分では一人前のドライバーと思い込んでおり、私は「お前は、まだまだ半人前や! 眠たいときは無理せずにクルマを停めて休憩やぞ!」と言うと、「わかってるわ!」と答えます。なんだか「デキの悪い息子」としゃべっている感じが、またかわいかったりもします。

 彼が、何時までトラックドライバーを続けるのか、知る由もありませんが、「これもなにかの縁だろう」なんて考えながら、できる限り応援してやろうとひそかに思っています。

*文中の写真は、扇風機以外すべてイメージです

【画像ギャラリー】車載用の扇風機が紡ぐトラックドライバーの絆(8枚)画像ギャラリー

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