最近クルマ好きに多いひと言が「あの頃はよかった」。1990年代までを指すこの言葉は担当も非常によくわかります。
そんな「あの頃」にクルマ好きを昂らせたのは高回転のNA(自然吸気)エンジンたち。とにかく高回転まで”キーン”と回る内燃機関に燃えたものです。
しかし、近年はホンダのタイプRまでもターボになり状況は一変。今後は気持ちのいいNAエンジンは生き残れるのか? それとも……!?
文:鈴木直也/写真:ベストカー編集部
■ターボよりも高回転NAの歴史は浅い
ダウンサイジングターボの登場以来、日常使いのファミリーカーまでターボエンジンが増えてきている。
もちろん、高性能エンジンも例外ではなく、ライバルに馬力で負けないためにターボは必須。たとえば、もしGT-Rが3.8LのNAだったら、出せても馬力は400psちょい。
これでは現在の高い評価は築けなかっただろう。
GT-RがGT-Rであるためにはターボで600psが必要だし、ハイパーカーと呼ばれるようなハイエンドスポーツカーのエンジンは、いまや1000psに迫る領域で競っている。そんなエンジンはターボでないと造れない。
ターニングポイントは2015年あたりだったと思う。ポルシェが主力911のエンジンを3Lにダウンサイズしてターボ化し、フェラーリも458から488へ進化する際にエンジンを4Lダウンサイズターボに変更。
つまり、ポルシェやフェラーリみたいにNA高回転エンジンの官能性能にこだわってきたメーカーですら、最近の環境規制をクリアするにはターボ化が不可避と判断している。
フェラーリですらターボに舵を切ったのを見ると、今後NAエンジンは燃費志向のアトキンソンサイクルや、ごく低価格の実用エンジンくらいしか生き残れないんじゃないか? そんな危機感をおぼえる。
じっさい、現在の国産車でスポーティなNAエンジンといえば、ロードスターの1.5L/2L、Zやスカイラインの3.7LのV6、レクサスRC F/GS Fの5LのV8といったあたり。
ロードスターはまだしも、他の大排気量V型エンジンは遠からず生産終了の運命にある。
昔のスポーツカー好きは「スポーツカーのエンジンは高回転/高出力型でなければイカン」という固定観念があったから、こういうターボ化の風潮に抵抗を感じるだろう。
しかし歴史を振り返ってみるとじつはNA高回転型エンジンの全盛期はそんなに長くなかったという見方もできる。
第2次大戦前の内燃機関の進化は航空機用エンジンが牽引したが、空気の薄い高空で使いこともあって過給器が必須。
ただ、過給器が現在一般的なターボではなく、エンジンから機械的に駆動される遠心コンプレッサーやルーツ型ブロアが使われていたのが違いだった。
この技術が応用できたから、戦前のスポーツカーやレーシングカーは過給エンジンが主流。
高回転に耐える金属材質、強度設計、吸排気の充填効率解析などが未熟だったこともあり、そもそもNA高回転型エンジンという概念自体が存在しなかったと言ってもいい。
逆に言えば、金属材質、強度設計、吸排気の充填効率解析などが進化したことで、第2次大戦後のモータスポーツ活動を中心にNA高回転型エンジンが脚光をあびることになる。試
行錯誤を経て、1967年には現代レーシングエンジンの基礎を築いたといわれるコスワースDFVが登場。
ここから、80年代にターボF1が台頭して主役の座を奪われるまでが、NA高回転型エンジンの短い全盛期だった(※F1でターボが禁止されNAエンジンの闘いに戻った1989年〜2013年までを、主に興行的な理由によるNA化という解釈)。
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