■VTECのような強烈なエンジンはもう見られない!?
いっぽう、量産車でリッター100psに達するNA高回転型エンジンが登場するのは、1989年のインテグラが最初の例だ。
ホンダが開発した可変バルブタイミング機構VTECのおかげで、ようやく一般ドライバーがレーシングエンジン並みの高回転パワーを体験することができるようになった。
NAエンジンの出力特性はカム次第で、レーシングカーのような高回転型カムを装備すれば低速トルクがスカスカになるし、低速トルクを重視した実用的なカムでは高回転パワーは期待できない。
二律背反のこの問題を解決するには、VTECのような可変バルブタイミング機構の発明が必須だった。
同時代でVTECを体験した人ならわかると思うが、そのトップエンドでの伸びのよさはまさに強烈だった。
VTEC以前のNAスポーツエンジンは回っても6500rpmくらいで、それ以上引っ張ってもだらだら回るばかりで面白みはない。
ところが、VTECが本格的に目覚めるのはそこから。5000rpmあたりで切り替わった高速カムは8000rpm付近まで一気呵成。
このブン回す快感こそがNA高回転エンジンの醍醐味で、多くの日本人はVTECによってはじめてその魅力を知ったわけだ。
この日本発祥の可変バルタイ機構は、さまざまなバリエーションが開発されて世界中に拡散することになり、欧州を中心にNAスポーツエンジンはリッター100ps以上があたりまえ、という時代が来る。
まだ、その頃のターボエンジンは「トルクは大きいがターボラグの問題もあってレスポンスがいまいち」といわれていた。
だからとりわけ繊細なレスポンスが要求される高性能スポーツカーはターボよりNAを選択するケースが多く、前述のフェラーリやポルシェをはじめ、BMWのMシリーズなどがNA高回転型スポーツエンジンの代表として多くのファン魅了したわけだ。
最初に述べたとおり、これらNA高回転型エンジンはダウンサイズターボに置き換えられつつあり、その将来はかなり悲観的だ。
直噴化、ターボの改良、エンジン制御技術の進化などによって、最近の高性能ターボエンジンは以前は弱点とされていた問題をほとんど克服している。
たとえば、3Lターボ化された911あたりに乗ってみると、NAなみに高回転まで淀みなく吹き上がるし、トルクは低速域から豊かだし、ターボラグすらほとんど感じられないくらい完成度が高い。
そんなポルシェに乗ると正直言って「もはやNAにこだわる必要はないかも?」と納得せざるを得ないのだ。
そうなると、NAスポーツエンジンに残された分野は、味わい深い官能性能を比較的低コストで実現できるというコトくらい。
たとえば、ロードスターのエンジンをターボ化するなんてことは誰も望んでいないが、こういう心情的なスポーツカーのエンジンがNAのまま最後まで残るんじゃないかと思う。
内燃機関が生き残るには熱効率の向上が必須。そうなると、理論的に過給を避けて通るわけにはいかないのが道理。
やっぱり、NA高回転型エンジンという存在は、ホンの短い時期に咲いた徒花だったのかもしれませんねぇ。
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