■燃料もスペシャル! エアフォースワンの運用
先に述べたとおり、機体の名称は「VC-25A」であり、「エアフォースワン」ではない。では「エアフォースワン」はなにかというと、航空管制における無線局呼称(コールサイン)だ。
「エアフォースワン」のコールサインが用いられるのは、大統領が搭乗している時に限られ、搭乗していない場合は、「SAM○○」(○には数字が入る)のコールサインを用いる。「SAM」は「Special Air Mission」の略で、VC-25A以外でも要人搭乗機などに用いられる。
VC-25Aは2機存在し、米空軍の機体番号ではそれぞれ「82-8000」と「92-9000」が割り振られている。どちらの機体であるかは、垂直尾翼に書かれた機番でわかる。以前は、どちらか一方に大統領が搭乗し、もう1機は故障時などのバックアップとして随伴する、2機セットでの運用が通例であった。しかし最近はどちらか一方が整備・改修に入っていることが多く、C-32Aという機体が随伴することが多い。
エアフォースワン用の燃料は、他の飛行機用とは別に厳重に管理される。全ての燃料が品質検査され、給油車に搭載の後、封印される。もしひとつでも封印が破れている場合はその燃料は使われない。横田基地の場合はもちろんのこと、羽田空港などの民間空港を用いる場合も空港常設の給油設備は使わず、必ず米軍の専用給油車で運び込まれる。
■まさかの横田基地友好祭開催中に着陸
来日時(東京の場合)には、羽田空港か横田基地に着陸する。今回の来日では横田基地が用いられた。いずれの場合も周辺は極めて厳しい警備体制が敷かれ、なかなか近くで見られる機会はない。しかし今回の来日では、なんと横田基地友好祭(一般公開)開催中に、一般客の目の前に着陸するという前代未聞の飛来であった。
羽田空港が用いられたのは、直近では2019年5月のトランプ大統領(当時)来日時だ。国賓待遇の場合には羽田空港が、そうでない場合には横田基地が使われることが多い。羽田空港には、第2ターミナル北側にVIP用ターミナルがあり、各国要人が利用する。通常のVIP機は、他の旅客機同様、ターミナルに頭を向けるか、やや斜め前向きに停める。しかし、エアフォースワンだけは、ターミナルに平行に、いわば「横付け」の停め方をする。これは、旅客機でみられるプッシュバック(車両による押し出し)無しに、自走で出発できるようにするためだ。友好国たる日本であっても、他国による支援に頼ることは一切しない。アメリカらしい方法だと感じる。そして、そんな特別な運用方法がまたより一層「エアフォースワン」の魅力を引き立てる。
■来日を支える他の航空機たち
米大統領の来日ともなると、エアフォースワンだけでなく支援のための航空機がたくさん飛来する。まず、大統領専用車をはじめとする車両や、来日中に必要な物資を輸送するために、C-17 グローブマスターIIIが事前に数機飛来する。また、今回は記者を乗せた民間チャーター機(ボーイング787)が当日飛来した。エアフォースワン着陸の後には、先に述べた随伴機(VC-25AやC-32Aなど)が到着する。
また、ヘリ移動が予定されている場合には、海兵隊が運用するVH-3D「マリーンワン」が2機、輸送機により運び込まれる(VH-60という機種が用いられる場合もある)。この「マリーンワン」も、エアフォースワンと同様、機体の名前ではなく、大統領搭乗時にのみ用いられる無線のコールサインである。横田基地着陸の場合には、横田基地-ハーディバラックス(六本木にある米軍ヘリポート)間をヘリ移動するため、今回も用いられた。この深緑色の特別なヘリも航空ファンの垂涎の機体で、来日時のマニア的重大注目ポイントのひとつとなる。
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