シエンタが売れている。2018年9月の改良で2列シート仕様を追加したことも話題となったが、翌10月に記録した9840台は、e-POWERで人気の日産 ノートをも上回る登録車2位の販売台数だ。
シエンタの長所といえば、全長約4.2mの小さなボディで3列シートミニバンを成立させた圧倒的なパッケージング。ホンダ フリードと並び、サイズ以上の室内空間が人気の秘訣だ。ミニバンに限らず、こうした優れたパッケージングを持つ日本車は多い。
「限られたサイズで広い室内と使い勝手を両立させる」
そこには、日本車ならではの優れた技術と知恵が詰まっているのだ。
文:御堀直嗣
写真:Honda、編集部、DAIHATSU
パッケージングを根付かせた日産車と新基準作ったホンダ車
日本に、パッケージングという概念を根付かせたのは、1990年発売の日産 プリメーラ(P10型)だろう。
それまで、室内が広いとか、荷室容量が大きいといった意味での快適性や利便性が語られることはあったが、クルマ全体の空間を合理的に活用する方法としてのパッケージングという言葉はあまり馴染みがなかった。初代プリメーラの宣伝では、「プリメーラパッケージ」の言葉が使われたほどだ。
昨今、パッケージングの凄さを見せつけたのはホンダのN-VANだろう。
「働く人の毎日をもっと便利に楽しくする、軽バン新基準を創る」として商品化されたN-VANは、N-BOXのプラットフォームを最大限に活用し、運転席以外の座席をすべて折りたたむことにより真っ平らな床を生み出すことができる。
「原点」はフィットのセンタータンクレイアウト
このパッケージングを実現したおおもととなるのが、初代フィットで開発されたセンタータンクレイアウトのプラットフォームだ。
従来、荷室や後席の下に配置されてきた燃料タンクを運転席下に配置することにより、後席座面をチップアップできるようになり、後ろのドアを開けて背の高い荷物を床に置けるようになった。
これは、日本の消費者を驚かせるだけでなく、欧州でも他にない利便性として人気を得た。なぜなら、欧州では路上駐車が合法であり、ことにパリは知られるように互いのバンパーをぶつけるようにして縦列駐車をする。
こうなると、リアハッチゲートを開けて荷物の積み下ろしはしにくい。フィットなら、歩道から後ろのドアを開けて様々な大きさの荷物を出し入れできる。
センタータンクレイアウトは、その後の欧州シビックなど様々なホンダ車で活かされ、そしてN-VANで驚くべき床機能を実現するに至った。
センタータンクレイアウトは、単に燃料タンクを前席下に配置するだけでなく、排気系を右側のサイドシルに沿って後ろへ配管することになり、この点でも床の利用の自由度を高めている。
シエンタの低床化に絶版車で得た発想と技術あり!
同じように低床を実現したのは、2015年に2代目へモデルチェンジしたトヨタのシエンタだ。
5ナンバー車でありながら最大7人乗りできる3列シートを備え、その3列目は、折りたたんで前方へ送り込むと2列目の座席下に収まり、荷室床面積をほぼ平らな状態で拡大できる。
また、2列目の座席を折りたたんで前方へ倒し込めるので、さらに荷室を広げられるし、3列目への乗降もしやすくなる。
3列目の座席を2列目下へ送り込むたたみ込み方は、1999年のファンカーゴで後席を倒し込んで低床の荷室面積を広げた実績があり、ファンカーゴ自体は1世代のみで終わってしまったが、その発想と技術が活きた例といえるだろう。
シエンタの低床の実現は、通常の小型ミニバンとしての利便性に止まらず、福祉車両としての機能も高めている。
低床の床が2列目の座席近くまで得られることを活かし、後ろのハッチバックを開け車椅子を乗せたとき、助手席側の1.5列目まで車椅子を前進して止めることができる。
これにより、車椅子で乗車する人の乗り心地がより快適になるうえ、運転者が少し振り向けば顔を見ることができ、車椅子で同乗する人の様子を確認したり、会話を弾ませたりしやすくできる。
トヨタは、福祉車両の“普通のクルマ化”に取り組んでおり、車椅子での快適さと合わせ、車椅子を使用しないときに通常の5人乗りができるようシエンタを仕立てている。パッケージングを極めると、福祉を視野にしたユニバーサルデザインを実現できる好例といえる。
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