自動車の歴史が始まって100年以上が経つが、現代のクルマよりも過去の名車に乗りたいというクルマ好きも多い。
しかしかつての名車たちも機械であり、部品は摩耗や経年劣化で必ずしや交換が必要になる。そんな時にすんなり部品が買えればいいのだが「製造廃止」といって、すでに部品の生産を終了しているケースも多い。
泣く泣く愛車を手放したオーナーの数は星のごとく。しかしそんな旧車を愛する人たちに技術の進化が味方をしてくれそうだ。それが3Dプリンターの応用。
ベンツが始めた旧車部品の再生産は非常に意義深いものになりそうだ。
文:ベストカーWeb編集部/写真:Daimler
■旧車の部品製造は多くのコストがかかる至難の技
旧車を愛する人にとって一番避けたいのは維持ができなくなること。もちろん経済的な理由も大きいけれど、直したくてもパーツがないなんてことも多々ある。
担当も1990年代の国産スポーツカーを所有していた時、ウェザーストリップが千切れてしまいディーラーで部品を検索してもらったことがある。
価格は驚くことなかれ、なんと片側だけで7万円!! たかだがゴムの輪っかなのに……なんて思いたくなる瞬間。
当然ながらクルマの部品にも需要と供給の問題がある。現行車のように年間数千台~数万台売れるクルマの部品は需要が多く価格も安い。
しかし旧車になれば世界でも数百台しか個体がなかったり、特定の部品が必要になるタイミングも個体のコンディションでまったく違う。
発注が一定数集まると再生産をするという仕組みもあるのだが、下手すると部品が手に入らないまま数年かかることも。
そうなると車庫にしまったままになるか、もしくは「ワンオフ」とよばれる世界に一点だけの部品を制作するなど、選択肢は限られてくる。
ポルシェなどはかつてからクラシックモデルの部品の生産を続けているが、金型の維持や、注文のたびに生産をするというのはかなりのコストがかかっているはず。
そのコストは価格に反映されるが、それでもポルシェのように元から高額車であればオーナーも納得できるだろう。
しかし広く親しまれた大衆車なのに、補修用バンパーが50万円と言われるとかなり厳しいものがある。
そんな問題を解決してくれそうなのが今回紹介する、3Dプリンターを用いたメルセデス・ベンツの旧車部品製造だ。
■3Dプリンターが旧車の部品調達の世界を変える!!
3Dプリンターといえば物体を3Dでスキャンし、そのデータを樹脂や金属などで削り出す技術。簡単に言えば立体造形物をコピーできるのだ。
2018年11月22日に発表されたベンツのプレスリリースによれば、ベンツは30年ほど3Dプリンティングの技術を使っているという。
これまではコンセプトカーの製造などにその技術を生かしてきたが、今回はクラシックカー部品の再生産に3Dプリンティングの使用を始めた。
プレスリリースでは、スパークプラグホルダーやミラーの基台など、おもに金属を用いた部品の生産を発表している。
もちろん単なる形状が同じということだけではなく、強度や耐久性もメルセデスの純正部品としてのクオリティを保っているという。
2018年末からドイツを起点として世界へ向けて一部パーツの出荷がされる。
気になるのがゴムや樹脂などで構成される部品の3Dプリンティングについて。やはり金属部品に比べてゴムや樹脂の劣化は早い。メルセデスはプレスリリース内でこう述べる。
「現在はエンジン部品などをメインに3Dプリンティングで生産を考えていますが、今後の可能性としてシールやゴムなどの細かい部品の再生も視野に入れいています」。
今後の展開に大いに期待だ。3Dプリンティングの大きなメリットはその寸法の正確性などにとどまらず、少量生産にも対応できることも挙げられる。
しかも一度スキャンデータを作れば金型のように劣化や摩耗することはないし、微調整などもデータ上で出来てしまう。
システムさえ整えばドイツから日本の提携工場に採寸データを送り、日本の工場で部品を「プリント」することもできそうだ。
メルセデスは「未来が”クラシック”と出会った」なんて表現しているが、旧車の修理に最先端技術を利用することは非常に意義のあることに思える。
国産車でもホンダのNSX、マツダのNAロードスター、ニスモのスカイランGT-Rなど特定の車種でレストアプランや、修復パーツの再販売などが始まっている。
とはいえ、まだまだ救うべき名車は多い。3Dプリンティングの技術を元に、今後もっと多くの名車たちが長年輝ける取り組みをメーカー各社がしてくれることを願いたい。
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