競争が激化するゼロ・エミッション大型トラック
バッテリーの搭載位置は不明だ。テスラは以前、バッテリーをフレームに内蔵する(バッテリーセルを構造材として使用する)構想に言及したことがあるが、イベントの映像からはキャブ下に補機類とインバータもしくは高電圧バッテリーの一部が搭載されているように見える。
テスラはセミの電費(走行距離当たりの消費電力)として2kWh/マイルを掲げている。航続距離を500マイルとすると、計算上のバッテリー容量は1000kWhとなり、こちらもメガワットクラスだ。
スーパーチャージャーV4によるメガワット充電が利用可能であれば、トラックドライバーに義務付けられている30分の休憩時間でバッテリーは50%(ポイント)回復する計算だ(SOC20%→70%が30分というスペックと一致)。
インフラの整備状況次第だが、V4チャージャーが使えるなら商用車として現実的な選択肢に仕上がっているという印象を受ける。
ただし、最初の納車を済ませたとはいえ、量産化はまだこれからだ(おそらく2024年以降?)。
しかし周囲に目を向けると、テスラのライバルとされるニコラは(イヴェコとの提携により)BEV大型トラック「トレBEV」を既に量産化し、北米に加えて欧州でも事業を開始している。
トレBEVは航続距離が330マイル、バッテリー容量733kWh、80%充電に160分など、スペックではセミに軍配が上がるが、2023年には水素燃料電池を採用する「トレFCEV」の発売を予告しており、その航続距離は500マイル、充填時間は20分未満と、セミと同等以上だ。
セミが順調に量産化されたとしても、そのころにはBEVだけでなく、長距離輸送においてはより有利とされる燃料電池車両(FCEV)との競争が待っているだろう。
新興メーカーとの競争だけでなく、フレイトライナー(ダイムラーグループ)やボルボなど伝統のトラックメーカーも北米市場に大型車を含む電動化オプションを用意している。また1000kWhクラスの大容量バッテリーについてもボルボの子会社が欧州で既に実用化した。
5年前の発表時は「革新的過ぎる」という印象のセミだったが、今となってはそれほど目新しさがない。この5年間の社会の変化と3年に及ぶ延期はそれだけ大きかった。
デリバリーイベントでマスク氏は6%の上りでも加速可能なトルクやソフトウェアによる車両安定性制御、ブレーキの安全性、トレーラ連結(カップリング)時のドライバーのアシストなどを強調していた。これは、アメリカでも深刻化するドライバー不足を念頭に、その魅力をトラックドライバーにアピールしたものだろう。
また、テスラはバッテリーセルまで内製しており、インハウス(社内)でコンポーネントからソフトウェアまで統合的な開発ができることが他社にない強みとなっている。
商用車にとって最も大切なのは、効率と経済性において魅力的であることだ。テスラ・セミの真価はトラックドライバーによる実運用を通じて、これから明らかになる。
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